孝則

 高校に入ってから、気になる人がいる。同じクラスの長谷部 桜。あまり人を寄せ付けない感じの雰囲気を感じるけど…友人達にはちゃんと接している。ちょっと不思議な女の子だった。


 違うクラスの友人の隼人から長谷部さんとセフレになったと聞かされた時は胸がザワついた。隼人と長谷部さんがそういう関係になった事は本人の意思。俺がどうこう言う筋合いは無い。


 高校1年の間に長谷部さんとはよく話をする関係になった。長谷部さんと話をすればするほど惹かれていく。隼人と長谷部さんがセフレという関係なのは知っている。けど…彼女じゃない。付き合っている訳じゃないんだ。それなら…俺が告白してもいいんじゃないだろうか…


 高校2年の春。俺は覚悟を決めて長谷部さんに告白した。


 「長谷部さん。俺と付き合って下さい」


 「…ふぇ?」


 なんか変な声が聞こえた。可愛いかったけど…


 「え、え~っと…恋人って事だよね?」


 「はい。恋人になって下さい」


 長谷部さんはもじもじしながら考えているみたいだ。焦らされている感じ…


 「はい…お願いします…」


 数分間の長い沈黙の後、良い返事をもらえた。数分間がこんなに長く感じた事は無い…


 「…よかった…」


 「あのね…今度から名前で呼んで欲しい」


 「名前…桜さん?」


 「桜でいいよ」


 「桜。俺も孝則でいいよ」


 「…まだ恥ずかしいから岩本君って呼ばせてもらうね」


 …そんなに可愛く言われたら無理強いはできないな。桜は俺が思っている以上に表情が豊かな女の子だった。



 高校2年の時は一緒に勉強をしたり、デートに行ったりしてとても楽しかった。

 冬くらいになっても俺は桜に手を出そうとはしなかった。桜と隼人の関係がまだ続いている事になんとなく気付いていたから。

 桜ともっと深い仲になりたいとは思っている。思ってはいるが…この先には隼人がいると思うと踏み出す事ができなかった。

 俺が2人の関係を知りながら桜と付き合いだした事を知ったら桜はどう思うだろうか…無理に引き離そうとしたら桜が俺から離れてしまうのではないだろうか…悪い結果しか想像できなかった。



 高校3年の夏。気付いたら隼人は俺を避けるようになっていた。桜は前と変わらず…いや、前よりも俺に寄り添ってくれている。

 2人の関係は…切れた?確信は無い。無いけど…桜が全力で俺の事を考えてくれているのはわかる。

 2人の間に何があったかはわからないけど…俺にとっては嬉しい事だ。桜が俺を想ってくれる分だけ俺も桜に返さなきゃ…


 動物園で見た無邪気な姿。プールで見た桜の魅力的な姿。日に日に桜への想いは増していく。俺だって人並みに性欲はある。健全な高校生だからな。それでもまだ隼人の影を振り払えずにいたから…桜に手を出す事を躊躇ってしまう。


 高校3年の秋。桜に勉強に誘われた。場所は桜の部屋。なんとなく気恥ずかしいけど…信頼されているという事だろう。期待を裏切らないようにしよう。

 桜に飲み物を準備するから先に部屋に上がっていて欲しいと言われた。勉強の準備をしておくか。…あれ?今日は何の勉強をするんだったか?

 悩んでいたら桜が部屋に入ってきた…下着姿で…


 「さ…桜?」


 「孝則君が悪いのよ…?」


 桜は顔を真っ赤にしながら俺に近付いてくる。


 「私…ずっと待ってた…でも…手を出してくれないから…」


 「い…いいのか?」


 「孝則君…お願い…」


 桜の甘えるような声を聞いて…俺は抑えていた劣情を解き放った。桜の負担にならないように気を使いながら…桜の求めに応じて激しく貪る。いつもの可愛い桜も魅力的だけど…初めて見せてくれる雌の顔も堪らなく愛おしい。


 「孝則君…凄かったよ…」


 「桜…まだ大丈夫?」


 「ま、まだできるの?」


 ずっと我慢していた反動だろうか。桜を何度も求めてしまった。桜は表情だけじゃなく、声でも俺の獣欲を刺激する。桜は疲れてしまったみたいだ。仕方ない。そろそろ今日の本題をしなくちゃいけない。


 「桜…そろそろ勉強しようか」


 「…無理です」


 桜が勉強の前にお風呂に入りたいと言ってきたので一緒に入った。…我慢できずに求めてしまった。好きな相手の入浴シーンなんて我慢できるわけがない。桜もとても嬉しそうだった…

 


 それからはたまに桜と体を重ねたけど…いつも桜がクタクタになるまでしてしまうので自制している。毎日抱きたいくらいだが…がっつきすぎると嫌われるそうだから…我慢も大事だ。桜の事は大切にしたいからな。


 

 桜と同じ大学に入り、順調な大学生活を送っていたが、父親が急遽転勤する事になったので俺は独り暮らしをする事になった。

 大学2年の秋からの予定だ。


 「…桜と同棲してもいいかな?」


 「桜さんの両親の許可があれば構わない。俺はすぐに現地に向かうから挨拶はできないが…俺からは許可する」


 「私もアパートを引き払う支度が終わったら父さんと暮らすわ。私には無理に挨拶しなくても大丈夫よ」

  

 桜は俺の両親と面識がある。3年以上も付き合っているからな。信頼されているようだ。


 「わかった。桜に話してみるよ」


 「ああ。結婚を考えているとしても避妊はしろよ。…孫は早く見たいがな」


 「孫が早く見れるなら避妊しなくてもいいわよ。責任は取りなさいね」


 …俺にどうしろと言うのか。まあ、ちゃんと避妊はするけど。まだ学生だからな。

 

 後日、桜に話したが…桜のお母さんが妊娠したらしいので出産するまでお預けとなった。桜もきっと家族の事が気になってしまうだろうし…



 大学3年の春。桜のお母さんが妹さんと一緒に帰ってきたそうだ。桜はとても嬉しそうに話してくれた。

 まだ同棲の挨拶に行ってない。ご両親に挨拶に行かないと…

 

 桜の家でお父さんの試練を乗り越えて同棲の許可をもらった。桜の妹…桜花ちゃんを抱かせてもらったけど…可愛かったな。母さんが早く孫を見たいって言ってた理由がわかった気がする。


 帰り道で隼人を見かけた。隣にいる女性ととても親しそうだ。挨拶したかったけど…桜は気まずいかもしれないと思って何も言わずに離れた。…あんな隼人は初めて見た。きっと…良い出会いがあったんだろう。




 桜と同棲を始めて3ヶ月。桜とお互いの過去の秘密を打ち明けた。俺が悩んでいたように桜も悩んでいたんだ…

 桜は俺に謝ってくれたけど、何も謝る事なんて無い。ちゃんと話してくれたのは桜なりの誠意の表れだ。

 いつだって俺の事を考えてくれる桜の事が愛しくて堪らなかった。言葉を交わすのももどかしく感じて…全力で桜を愛する事を答えとした。


 数日後。桜の実家から俺宛に荷物が届いた。何だろうと思って箱を開けてみると…バイブが入っていた。タカノリ2世ってマジックで書いてある…2世?…1世は?いや、それよりこれを俺にどうしろと?

 少し考えた後に箱に戻してクローゼットの奥に封印した。見なかった事にしよう。桜の想いの強さの表れかもしれないが…あの話を聞いた後だと気まずい。使っていた期間が予測できてしまう…


 

 大学4年。桜と一緒に桜の実家に来ている。桜花ちゃんは会う度に大きくなっていくな。カバのぬいぐるみに抱き付いている姿を見て、桜に似るのかもしれないと思った。


 桜花ちゃんを抱いている桜の姿を見て…前々から考えていたプロポーズをする事に決めた。桜との子供が欲しいと思ってしまったから…

 お父さんの試練を乗り越えて婚約を認めてもらった。

 付き合って6年か…本当にあっという間だった。付き合ってからこれまで…桜への想いは強くなる一方だ。これからもきっと俺は桜に魅了され続けていくのだろう。桜に会えて…本当によかった。

 

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