弥生
高校1年の時に彼に告白された。バレー部の見学に来ていたのは気付いてたけど…私を見にきていたなんて思わなかった。
私は女子にしては身長が高い。だからあまり女の子扱いされた事はなかったんだけど…平野君は私を真っ直ぐに見て、真っ赤な顔で告白してくれた。
普通に話しかけてくれる男子は平野君しかいなかったから…彼は私にとって特別な存在だったのだと思う。私は告白されて嬉しかった。だから彼と…雅明君と恋人になった。
雅明君は…ちょっとエッチだけど、凄く優しかった。私の事をいつも待っていてくれるし、帰りは家まで送ってくれる。たまにちょっとズレてる事を言ったりするけど…そんなところも可愛く感じる。
高校2年の夏休み明けまでは…とても幸せだった。
夏休み明け、私はコーチに毎日のように居残りをさせられていた。無理矢理迫られ、動画を撮られてからコーチに逆らう事ができない。
「おい。早くしろ。彼氏にバラされたいのか?」
「……」
「お前がこんな女だと知ったら…まあ、普通は別れるだろうな。彼氏に隠れて他の男に抱かれてる女なんて汚物にしか見えないからよ」
雅明君にだけは知られたくない。彼は本当に私の事を大切にしてくれているし…私にとっても何より大切な人。別れたくなんかない…
精神的に追い詰められていた私は…雅明君と別れたくないという一心でコーチと関係を持ち続けた。
雅明君が守ってくれる気がしたから…抱かれる時はブレスレットを付けた。
毎回…撮影されていたなんて気付かずに…
コーチと関係を持ち始めて半年近く。雅明君はずっと私の事を心配してくれている。
…コーチとの関係はいつまで続くんだろう。…他の子が代わりになってくれないかな…
最近、自分が助かりたいが為に最低な事を考えるようになってしまった…そんな事…許される訳がないとわかってはいるけど…
ある日の昼休み。雅明君はチャラ男君と一緒にどこかに行ってしまった。昼食のパンは置いていってるからすぐに戻ってくると思う。
15分くらい経って雅明君は戻ってきた。特に会話がある訳じゃないけど…雅明君の傍にいるだけで落ち着く。
昼食を食べ終えた。雅明君に連れられて屋上に向かう。なんだろう?
「弥生…これは何かな?」
雅明君が見せてくれたスマホの画面には…コーチに抱かれている私の姿が映っていた…
「なんで…」
「俺が知りたいよ…なんで…こんな…」
最初に襲われた時の動画じゃない…あの時とは別の動画を…なんで雅明君が…
雅明君の辛そうな顔を見た瞬間…私は耐えられなくなって屋上から逃げ出した。校舎裏まで走り、コーチに電話をかける。
「なんだよ?」
「なんで雅明君が動画を持ってるんですか!?秘密にしてくれるって言ったのに…」
「…お前の彼氏が動画を持ってるって?」
「これは何って…見せられました…なんで渡したんですか…酷すぎます…」
「俺じゃねぇよ。チッ…面倒だな…」
コーチはそれだけ言って電話を切った。それから何度かけても繋がらない。
…今日は…もう帰ろう…
保健室に行って早退させてもらうようお願いした。私はよほど酷い顔をしていたんだと思う。先生はすぐに家に電話をしてくれた。
迎えに来てくれたお母さんの車に乗って家に帰る。家に着いてすぐに部屋に籠もった。
ベッドの横でコータが心配してくれている…コータを抱き上げてベッドで一緒に寝た。
翌日…朝起きると真白からメールが入った。
平野がコーチに襲われて重傷を負った。コーチは逮捕されてる
真白らしいシンプルなメール。内容はとんでもない物だったけど…
メールが入る前に着信も何件かあった。…眠りが深すぎて気付かなかった…
雅明君が…重傷?コーチが雅明君を?
メールの内容を頭で理解すると…コーチへの怒りしか湧かなかった…
私は両親に全てをうち明けた。コーチに無理矢理関係を迫られていた事。雅明君に秘密にする為に受け入れていた事を…
両親には激しく怒られたけど…まだ終わりじゃない。被害届を出すために協力をお願いした。
雅明君が重傷を負わされたという事を伝えると両親はすぐに動いてくれた。
警察に向かう前に学校に連れて行ってもらう。まだ登校時間。教師の大半は職員室にいるはず。私は職員室に入ると大声でコーチにされた事を暴露した。誰に言えばいいかわからなかったから。
簡単に事情を説明して警察に向かう。コーチがここに逮捕されているのかわからないけど…全て話して被害届を出してきた。
数日後…警察の調べの結果、私の動画は有料サイトに上げられている事がわかった。
私はあの日から登校していない。真白はいろいろ学校の情報を教えてくれるけど…雅明君の事は何もわからなかった。
雅明君を騙していた私は傷つけられても仕方ない。でも…雅明君は何も悪い事なんかしてないじゃない…本当にごめんなさい…
私は転校する事になった。有料サイトに上げられていたのは私だと特定された訳じゃないけど…コーチとの関係を職員室で暴露しちゃったから…もうあの学校には通えない。
夕方くらいに真白からメールが入った。
英男に弥生の番号を教えた。すぐに平野がかけてくると思うから出てあげて。
メールを読み終わると同時に電話がかかってきた。知らない番号…英男って誰だろう?でも…雅明君…なんだよね?
「…もしもし?」
『あ!俺だけど!大丈夫!?』
久しぶりに聞いた雅明君の声…
「…え?う、うん。私は大丈夫」
『よかった…話を聞いて…本当に心配だったんだよ…』
本気で私の心配をしてくれているのが伝わってくる。…雅明君のほうがよっぽど酷い目に遭ったのに…
「ううん…悔しくて悲しかったけど…雅明君が大怪我させられたって聞いて…」
『俺は大丈夫。気付いてあげられなくてごめん…』
「私が隠してたから…話せなくてごめん…嫌われちゃうと思って…話せなかった」
『嫌いになんかならないよ…俺は弥生の事が大好きだから』
コーチの言う事になんて従うんじゃなかった…雅明君は全てを知っても私の事を…雅明君を信じてなかったのは私のほう…
「…私ね。転校する事になったの…」
『そう…なんだ』
…だから、別れるべきなんだと思う。雅明君は本当に優しい人だから…私なんかより良い人がきっと…
『絶対に会いに行く』
「…え?」
『どんなに遠くても会いに行くよ』
「付き合ったままで…いてくれるの?」
『別れたくない。弥生の事が大好きだから』
もう…涙を堪える事なんかできなかった。別れたくない。私も別れたくないよ…
「…ありがとう」
『いつ…引っ越すの?』
来年度から違う学校に通う為にはすぐに動かなきゃいけない。時間の余裕はあまりなかった。
「…来週」
『我が儘を言ってもいいかな?』
「…うん」
『お見舞いに来て欲しいな』
「行っちゃダメだと思ってた…」
『来てくれたらめちゃくちゃ嬉しい』
「うん。明日…行くね」
『待ってるよ』
引っ越しの準備もあるけど…雅明君と会える時間はもう限られている。何より…私が雅明君と会いたくて仕方ないから…
『ごめん。そろそろ切るね』
「うん。話せて嬉しかった」
『俺もだよ。明日…楽しみにしてる』
電話は切れたけど…雅明君との絆は繋がった。私は雅明君と別れなくていい…それだけで…心が救われた気がした…
真白にお礼のメールを送る。真白のメールがなければ知らない番号からの電話はとらなかったと思う。
お父さん達に事情を話して雅明君との時間を作らせて欲しいとお願いした。
「雅明君はなんて言ってたんだ?」
「全てを知っても…私と別れたくないって言ってくれたの…お見舞いに来てくれたら嬉しいって…」
「…弥生の分は私がまとめておいてあげる。弥生は時間が許す限りお見舞いに行ってあげなさい」
「お母さん…ありがとう」
「引っ越した後も…いつでも遊びにきなさいと伝えておいてくれ」
「うん…お父さん…ありがとう」
両親の許可は…お見舞いに行く事と…付き合い続けてもいいという許可だった。
翌日…雅明君のお見舞いに来た。なんだろう…デートの時より緊張してるかもしれない。受付で雅明君の病室を聞く。平日だからちょっと怪しまれたかもしれない…
雅明君の病室…深呼吸をしてノックをする。
「どうぞ~」
「失礼します」
ドアを開けると…全身に包帯を巻いた雅明君がベッドで横になっていた。…でも、表情はとても嬉しそう…
「雅明君…」
「弥生…久しぶりだね。会いたかったよ」
病室に入ってドアを閉める。ちょっと人に見られたくないから…
雅明君の顔は少し腫れてる気がする…私のせいでこんな大怪我を…
「弥生?」
私は何も言わずに雅明にキスをした。しばらくまともに向き合っていなかったからか…雅明君の事が愛しくて仕方ない。
「大好き…」
「俺もだよ…」
私は引っ越すまでの間…身動きのとれない雅明君を思いっきり可愛がった。怪我をしていなければ…押し倒していたと思う…
高校3年の夏休み…私は1週間遊びにきた雅明君とずっとイチャイチャしてる。2週間に1回くらい遊びに来てくれるけど…本当なら毎日会いたい。
2人で近所にある海で遊んだり…コータの散歩に行ったり…夜は私の家族と一緒に花火をしたり…
寝る時は私の部屋。これは譲らない。客室を用意してくれてたみたいだけど…雅明君は私と寝るから必要ない。
お父さんと私が口論している間にお母さんは雅明君にゴムを渡していた。
「ちゃんと避妊するなら許可します」
「約束します」
「母さん!」
「3対1だもん。お父さんだけダメって言っても聞かないから」
お父さん。ごめんね。雅明君の事だけは私の好きにさせて欲しいの…
いつもの1泊くらいならお父さんも我慢してくれるんだけどね。
とても爛れた1週間…家で…海で…会えない時間を埋めるように私達は体を重ねた。
大学に入った時はお父さん達に同棲の許可をもらう為に雅明君は玄関先で土下座をしていた。
「どうしても弥生と同棲したいんです。お願いします。お願いします」
「…とりあえず、中に入ってくれんか?」
「雅明君は相変わらずね…」
「雅明君。お父さん達は反対する気はないから…頭を上げて…」
こういうところも大好きだけど…流石に恥ずかしい。
雅明君のおかげでコーチとの悪夢のような半年は過去の事になっている。
たまに鮮明に思い出す時もあるけど…雅明君が隣で支えてくれるから…私は前だけを見ていよう。愛しい人と歩む幸せな道だけを…
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