雅明

 目が覚めると真夜中だった。体中に鈍い痛み…なんか体が動かしにくい…知らない部屋…病室っぽい?

 横にあった台の上に


 目が覚めたらコールして下さい


 と書いてあったのでそれっぽいボタンを押した。看護師さんが来てくれて状況を説明されたけど…怪我の状況だけだった。全身の骨が折れたりヒビが入ったりしてるらしい。

 全治4ヶ月。それって留年するんじゃ…


 と言っても看護師さんにそんな事はわからないだろう。スマホも壊されたから親に連絡できないと思っていたら、病院から高校に連絡がいって担任が対応してくれたそうだ。両親も来てくれていたが今日は帰ったと言われた。…なら、心配しなくていいかな。




 入院して数日。めっちゃ暇。考える時間はたっぷりあるけど…弥生の事を考えるだけで辛い。学校も留年かと思うと辛い。犯人が誰かなんて考えてもわからない。以上。

 雲が流れるのをぼんやりと見ていたら夕方にチャラ男がお見舞いにきた。なんで?


 「平野。起きてたか」


 「ああ」


 「あ~…その、大変だったな」


 「怪我の事か?」


 「怪我もだけど…彼女さんの事も…」


 「…何の事だ?」


 「…聞いてないのか?」


 「スマホ壊されたからな」


 チャラ男はそうか…と言って状況を説明してくれた。ファミレスのバイトに向かっていたチャラ男とバイト仲間の女の子は俺が襲われていたところに偶然通りかかったらしい。


 「…あの時の…お前だったのか」


 「ああ。びっくりしたぜ。あんなの殺人未遂だっての」


 「助けてくれてありがとう」


 「気にすんな。偶然だよ」


 え…何このチャラ男…カッコイイ…とか思ってたら続きを話してくれた。


 「俺が犯人を追いかけてたら犯人が派手に転んだんだよ。その時に周りにいた人達と一緒に捕まえたんだけど…犯人はバレー部のコーチでさ。そのまま逮捕された。

 んで、お前の彼女さんがお前がコーチに大怪我させられたって聞いてブチ切れたらしくて…職員室に乗り込んでバレー部のコーチに無理やり犯されてたって暴露したんだよ。被害届けも出したみたいだな」


 「…ごめん。いろいろ理解できない」


 「…だよなぁ」


 「すぐに学校だの警察だのが動いて…バレー部のコーチは彼女さんの動画で小遣い稼いでたのがわかったらしくてさ…。

 彼女さんは今は登校してきてない。

 学校は責任がどうとかで袋叩きにされてるみたいだな。」


 「…弥生と話さなきゃ…」


 「………」


 「きっと…弥生は傷付いてる。支えてあげなきゃ…」


 「やっぱお前…良い奴だな」


 チャラ男が持ってた動画は友人から流れてきたそうだ。オカズの共有だったらしい。


 「見た事ある顔だなって思ったけどすぐにクラスメイトだって気付いたんだ。

 最初は彼氏のお前が流してるのかと思った。だから止めさせようと思ってあの時、話しかけたんだよ」


 「そんな事する訳ないだろう!」


 「ああ。動画を見たお前はすげぇショックを受けてたからな。だから動画を渡したんだよ。お前に必要かもって。…そのせいで大怪我させちまった。すまない」


 「なんでお前のせいになるんだよ?」


 「お前が彼女さんに動画を見せた。彼女さんはコーチに問いただした。コーチは口封じにお前を襲った。…多分、こういう流れだと思う」


 「…俺を襲ったって証拠隠滅になんかならないだろう…」


 「そこまで考える奴ならそもそも動画で小遣い稼ぎなんかしねぇよ。学生に手を出したりもな…。バカだから目の前の問題を力尽くで解決しようとしたんじゃねぇか?…まあ、これも予想だけどな」


 「…そうだな。路上で襲ってくるような奴だもんな…」


 「そんな感じで納得しとこうぜ。あんな奴の考えなんか理解したくもない」


 「…確かに。…なあ…学校でさ、弥生の連絡先を聞いてきてくれないかな?」


 「………」


 「どうしても話したいんだ…頼む…」


 「俺のバイト仲間が彼女さんの友達だ。今、聞いてやるよ」


 あの時の女の子…弥生の友達だったのか。チャラ男がその子にメッセージを送るとすぐに返事がきた。…信頼されてるんだな。普通は人の番号なんて送らないと思うんだけど…


 「バイト仲間は元バレー部でお前が彼女さんと付き合ってるって知ってるからな。彼女さんの事を心配してるのはお前だけじゃないんだよ」


 「…なるほど」


 チャラ男は自分のスマホで弥生に電話をかけた。俺の手はスマホを持てない。チャラ男は何も言わずに電話を話ができる位置で

持ってくれている。

 何…この行き届いた気配り…これもチャラ男のテクなのか!?

 何度かのコール。…まあ、知らない番号だもんな。警戒して出ないかも…


 『…もしもし?』


 出てくれた!!


 「あ!俺だけど!大丈夫!?」


 …何が大丈夫なんだろう。ちょっと興奮しすぎたかもしれない。横でチャラ男が余裕なさすぎとか言って笑っていた。


 『…え?う、うん。私は大丈夫』


 「よかった…話を聞いて…本当に心配だったんだよ…」


 思わず涙が出た…チャラ男が空いた手でそっとハンカチで拭いてくれた。…そんな事されても嬉しくなんかないんだからね!?


 『ううん…悔しくて悲しかったけど…雅明君が大怪我させられたって聞いて…』


 「俺は大丈夫。気付いてあげられなくてごめん…」


 『私が隠してたから…話せなくてごめん…嫌われちゃうと思って…話せなかった…』


 「嫌いになんかならないよ…俺は弥生の事が大好きだから」


 チャラ男が泣いてる。待て。そのハンカチで涙を拭くんじゃない。


 『…私ね。転校する事になったの…』


 「そう…なんだ」


 かなり大事になっているようだから…弥生はあの学校では平穏に過ごせないだろう…


 「絶対に会いに行く」


 『…え?』


 「どんなに遠くても会いに行くよ」


 『付き合ったままで…いてくれるの?』


 「別れたくない。弥生の事が大好きだから」


 『…ありがとう』


 「いつ…引っ越すの?」


 『…来週』


 「我が儘を言ってもいいかな?」


 『…うん』


 「お見舞いに来て欲しいな」


 『行っちゃダメだと思ってた…』


 「来てくれたらめちゃくちゃ嬉しい」


 『うん。明日…行くね』


 「待ってるよ」


 隣を見るとチャラ男が看護師さんに謝っている…電話はダメなのかもしれない…


 「ごめん。そろそろ切るね」


 『うん。話せて嬉しかった』


 「俺もだよ。明日…楽しみにしてる」


 俺がそういうとチャラ男は電話を切った。2人で看護師さんに平謝り。動けなくても病院内で電話はダメだと怒られた。


 「ありがとう」


 「いや、いいもん聞かせてもらった」


 チャラ男はまだ泣いてる。だからそのハンカチ…


 「あ…あのさ…」


 「ん?」


 「チャラ男…俺の友達になってくれないか?」


 「…?…おお…まだ友達じゃなかったか。もちろんいいぜ。よろしくな。平野」


 こうして俺は長い付き合いになる親友と友達になった。


 俺の留年の件だけど…入院は2ヶ月で済んだので補修を受ける事でなんとか回避できた。学校側も責任を感じていたのだろう。協力的だったと思う。

 チャラ男は俺が留年になったらまたマスコミやネットで叩かれるからじゃないか?とか言ってた。…あり得るな。


 弥生は引っ越す前日までお見舞いに来てくれた。動けない俺は弥生にいきなりキスとかされて散々オモチャにされた…弥生なりの甘え方なのかもしれない。

 俺をオモチャにする事で弥生の心の傷が少しでも癒えるなら…いくらでもオモチャにされる覚悟がある。

 最後の日に同じ大学に行くと約束して別れた。

 引っ越した後も俺が退院してからは月二ペースで会いに行ってる。



 チャラ男は普通に良い奴だった。人は見かけによらない。今はバイト仲間に告白したいけどできないとか言ってるチャラ男を煽りまくっている。…間違いなく両想いだから。


 ゴリラは10年以上檻の中らしい。あんなゴリラ知らん。思い出したくもない。


 そんな感じで弥生とは離れてしまったけど…楽しい学校生活を送っている。

 自分のバイト代で買ったスマホで毎晩弥生と話してるから…少ししか寂しくない。嘘です。めちゃくちゃ会いたいです。


 チャラ男の告白は成功したそうだ。相手は俺がバレー部の見学をしていた時によく話していた女子…千代田さんだった。


 「あのコーチの事が生理的に受け付けなくてさ…夏前にバレー部辞めたんだよね。で、バイトでもしようと思ったら英男が働いてたの」


 「ほう。英男はバイトはちゃんとできてるのかね?」


 「見た目こんなんだけど真面目だよ。気も利くし…優しいし…」


 「英男君。熱々ですな~」


 「やめてくれ…」


 「平野には負けるわよ。バレー部の頃に散々見せつけられたからね」


 「その話、詳しく教えてくれ」


 「やめて下さい。お願いします」


 「…アンタら、似てるわね。…平野。弥生とは上手くやってるの?」


 「ラブラブですが?」


 「聞くだけ野暮だったわね」


 俺達4人は同じ大学に通う事になった。弥生の両親に頼み込んで同棲も許可して貰えたし…これからの生活はきっと楽しくなるだろう。

 …弥生の動画はそこそこ出回ってしまっているらしい。だから俺は弥生の傍でずっと守り続けるつもりだ。どんな手を使っても…

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