清香
私には最高の親友がいる。名前は梓。見た目はクールな美人って感じだけど…性格は大人しくて凄く可愛い子。
梓とは小学生の頃からの付き合いだけど、ちょっと変わった子なのは気付いていた。あまり人付き合いが好きじゃないんだと思う。話しかけても返事が素っ気ないから話しかけ辛いのよね。
梓は何故かはわからないけど、私とは仲良くしてくれた。気付いたら傍にいる梓の事を最初は懐いてくる子犬みたいな感覚で見てた気がする。
中学ではよく一緒にいた。私はお喋りだから聞き上手な梓とは相性が良い。一緒に遊んだり、勉強をしたりして過ごした。他の子達と遊ぶのも楽しいけど、梓と一緒にいる時はなんか落ち着くのよね。
高校に入ってしばらくすると…なんとなく梓の雰囲気が変わった事に気付いた。…これは男ね。間違いない。
梓に三島と付き合い出したと教えてもらった頃には三島の情報を集め終わっていた。ちょっと適当な奴っぽいけど…他に女の影は無いみたいだから大丈夫かな。私の可愛い梓を泣かせたら地獄を見せてやるけど。
高校2年。梓と三島はちゃんと付き合っているみたい。心配してたけど…梓の雰囲気が柔らかくなっているから文句は言えない。
梓との時間が減ってちょっと寂しいけどね。私も新聞部の活動があるから忙しい。お互いに独り立ちする時が来たのだと思う事にしよう。
夏くらいにまた梓が可愛くなった。恋は女を変えるって言うけど…梓は変わりすぎ。
最近は梓狙いのバカ共をこっそり遠ざけるのに忙しかったりする。あの子…騙されやすそうだからなぁ。一途だから心配無いとは思うんだけどね。
夏休みが終わって、中間テストの前に梓と遊んだ。勉強もちゃんとするよ?
梓が家にノートを忘れたから取りに帰った。珍しい。でも可愛いから許す。
部屋で涼みながら漫画を読んでいると梓から電話があった。…なんで電話?
「清香…私…どうすればいいの?」
「梓?何があったの?」
梓の声を聞いただけで何かあったのだとわかる。
「…透と飛鳥が…飛鳥の部屋で裸で抱き合ってたの…」
「………梓。すぐにウチに来なさい」
「…わかった」
電話を切った後、自分の怒りを鎮めるのに必死だった。あの2人…何してんのよ…
梓を抱きしめてあげた。梓は泣き方がわからないみたいだったから…思いっきり泣かせてあげたかった。少しでも感情を外に出さないと壊れてしまう。私の胸で声を押し殺して泣く梓を見ながら…私の怒りは頂点に達していた。
梓があの2人に何かしたとは思えない。あの2人は自らの意思で梓を裏切って傷つけたんだ。許されるなら私の手で地獄に落としてやりたいけど…梓はきっとそんな事は望まないだろう。
…だから私が手を下す事は無い。…絶対に許す事も無いけどね…
その日の帰り際に見た梓の顔は…もう既に何かが欠けていたように見えた…
それからは梓との時間を増やすようにした。梓に近付こうとする男達は徹底的に排除した。今の梓に男を近寄らせる訳にはいかない。友人達に事情を説明して協力も頼んだ。三島と飛鳥の悪評も広まるだろうけど…知った事じゃない。梓を守る為には手段を選んでなんかいられないのよ…
梓と一緒に新聞部の部室で昼食を食べる。部長や顧問にお願いして許可をもらってあるから問題無い。梓に人を近付けてはいけない。最近の梓はおかしい感じがするし…
私の配慮を無駄にするように部室に三島が来た。よく…顔を見せられたわね…
「…何の用?」
「…俺と飛鳥の噂を流したのはお前だろう?マジで迷惑なんだけど?」
「アンタ達が梓にした事を考えたら可愛いもんでしょうが」
「…俺は飛鳥に誘われただけだ」
「馬鹿な事言わないで。乗った時点で共犯に決まってるでしょう」
「清香…大丈夫?そこには誰もいないよ?」
梓の一言で…私と三島は固まってしまった。
「あず…さ?」
「何?」
「ここに三島が…いるよね?」
「え?誰かいるの?」
梓は本気だ。本気で三島の事を認識していない…確かに…あの時に梓は2人の事をもういらないって言ってたけど…
どれほどの想いがあればそんな事が可能になるの?そこまで追い詰められるなんて…どれだけ梓の傷は深いの?
私が甘かった。梓の心は私が想像できないくらいに壊れてしまっている。
「清香!?大丈夫!?」
「っ…大丈夫…私は…大丈夫だから…」
梓の心配する声で自分が泣いている事に気付いた。これ以上…梓の心に負担をかけちゃいけない。
「アンタのせいで梓は…!さっさと私の前から消えなさい!」
元凶を梓に近付けてはいけない。梓は…私が守らなきゃ…
「訳わかんねぇよ…付き合ってられるか」
最初からあんな奴だってわかってれば…こんな事になる前に手を打ったのに…
「清香…本当に大丈夫?」
涙が止まらない私を心配して梓が抱きしめてくれた。…どうしてこんな良い子が辛い目に遭わなきゃいけないのよ…
「梓…大丈夫…私が傍にいるから…」
「うん…ありがとう」
その日からしばらくして…梓は学校に来なくなった。電話をしても繋がらない。仕方ないので梓の家に行く事にした。飛鳥がいる家に引き籠もっていても…梓には悪影響だろう。
梓の家にいたのは飛鳥だけだった。久しぶりに顔を見たけど…やつれている気がする。
「…梓はどこ?」
「お姉ちゃんは…〇〇病院にいます…」
病院…。確かに病院で治療できるならそうすべきか。病院名を聞けたからもう用は無い。三島と飛鳥とは関わりになりたくないから…
「…お姉ちゃんの事…お願いします…」
「…よくそんな事が言えるわね」
梓を壊した元凶の癖に…
梓のお見舞いの為に〇〇病院に向かった。電車とかを使って片道1時間。遠い場所なのは梓の両親の配慮なのかもしれないけど…私には辛いなぁ。
受付で梓の名前を出しても許可をくれなかった。仕方ない。梓の両親に連絡を取ろう。学校の担任経由で話を通してもらった。梓の両親から病院に電話をしてもらってなんとか許可が下りる。梓に会うのは数日ぶりだ。
梓の病室に入ると梓はベッドで大人しくしていた。…でも…
「梓…元気そうで良かった…」
「………」
私が話しかけても梓は反応してくれなかった。寒気がする。私の事も三島みたいに認識できなくなったのかも…
諦めずに何度も梓に話しかけた。
「梓…私だよ…」
「…清香?」
10分くらい話しかけてようやく梓は私の事を見てくれた。嬉しさで涙が出た…
「清香?どうしたの?」
「大丈夫だよ…私は大丈夫」
梓の状態は良くない。その日から私は梓のお見舞いに行く事にした。
反応してくれない時間が徐々に長くなっていく。最近じゃ1時間近くかかるようになった。
「梓…私をちゃんと見て。私はここにいるから…」
「…うん…ありがとう。清香」
話せる時の梓は以前と変わらない。穏やかに微笑みながら私の話を聞いてくれる優しい梓のままだった。
…胸の中にあるいつか認識してもらえなくなるかもしれないという不安。それが確信になったのはすぐだった。梓はもう…私以外の人間を認識できなくなっている。
きっと…私の事も…
1ヶ月後…梓は私に反応してくれなくなった。とうとうこの日が来てしまった…心に大きな穴が空いたような喪失感を感じる。
なんでかな…こんなの絶対におかしいよ…梓が何をしたって言うのよ…
普通に高校生活を送って…普通に恋愛してただけじゃないの…
何も話さなくなった梓に話しかけ続ける。そんな生活を半年続けた。梓はもう食事もできない。点滴で生かされ続けているだけだ。
…私は梓に別れを告げると決めた。最後のお見舞いとなる日に三島と飛鳥を病院に呼び出す。
最後のお見舞い。私の横にいる屑共に裏切られてから壊れていく梓を必死に繋ぎ止めようとしたけど…梓は壊れてしまった。
飛鳥は憔悴しきって以前の可愛い感じが見る影もない。梓の姿を見るなり…ボロボロと涙を流す。
三島は愕然としていた。見舞いにも来ていなかったんだ。梓の様子なんか知らなかったのだろう。
「梓…一緒にいてあげられなくてごめんね」
私は彼女に最後の言葉を告げて帰った。
帰り際に屑共に
「地獄に落ちろ。人殺し」
それだけは言っておきたかった。
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