梓 高校1年

 高校1年生。清香と同じクラスになれてよかった…進級してもクラス替えは無いので3年間同じクラス。


 「…留年しなければね」


 「入ったばかりで留年の心配って…」


 清香は言うほど成績は悪くない。集中力が無いだけ。適当にやってそれなりの成績だから頭はいいんじゃないかな?


 「部活は必須か~。梓は陸上部でしょう?」


 「うん。清香も入る?」


 「無理ね。自慢じゃないけど運動は苦手なのよ」


 「残念。…清香なら新聞部とか?」


 「私って梓にどう見られてるのよ……でも、ちょっと面白そうね」


 清香は人の噂とか好きだから…なんとなく合ってそうな気がしただけなんだけど…清香は本当に新聞部に入ったそうだ。


 私は陸上部に入った。やっぱり高校生にもなると皆凄いなぁ。私もそれなりだったけど、先輩達は本当に速い。高校レベルって中学とは比べ物にならない。


 「小森。やっぱり陸上部に入ったんだな」


 「うん。三島君もね」


 三島君は本当に凄かった。短距離走で先輩達とほとんど変わらないタイムを出している。100mを11秒台前半。まだ成長期だろうから将来的に10秒台になるかもしれない。


 「凄かったね」


 「お前までそんな事言わないでくれよ…プレッシャーとかにマジで弱いんだから…」

 

 そう言いながらも大会でちゃんと入賞してるんだからなぁ…

 まあ、適度にやるのが三島君なりの秘訣なんだと思う。私も強制されるのは好きじゃないからなんとなくわかるかな。


 高校生活はそれなりに楽しかった。普段はあまり遊べなくなったけど、休日や部活が無いテスト期間とかは清香と一緒にいられたし…


 「聞いて聞いて!野球部内の乱れた風紀をスッパ抜いてやったわ!」


 少し前に野球部のコーチがマネージャーに手を出してクビになったとか聞いたけど…どうやら清香が暴いたらしい。


 「あまり危ない事はしないでね…」


 「大丈夫よ。私は新聞部の期待のホープですから」


 「はいはい。そろそろお喋りはやめて勉強するよ」


 「は~い」


 清香は適度にガス抜きをすれば勉強してくれる。清香の話は面白いからついつい聞き入っちゃうんだけどね。


 1学期の期末テストが終わった。私は…中の上くらいかな。清香は私より少し上。やっぱりやればできるんだね。

 テストが終わったから部活が再開した。夏か…日焼け止め塗らなきゃな。

 汗だくになったのでシャワーで汗を流した後に帰る。校門のところに三島君がいた。珍しい…どうしたのかな?


 「小森…一緒に帰らないか?」


 「うん。いいよ」


 私達の家は高校から歩いて30分くらい。自転車で通学するほどの距離じゃない。

 いつものように歩いて帰る。…なんとなく三島君の様子がおかしい気がする。


 「ちょっと…公園に寄っていかないか?」


 「公園?いいけど…」


 なんだろう。歩きながらじゃ話しにくい事でもあるのかな?

 近所の公園。懐かしいな。昔は一日中ここにいた気がする。私と飛鳥で砂場を占拠してお城を作った。…次の日には壊されてたからまた作った。その繰り返し。そんな思い出しかない…

 部活帰りの遅い時間だから流石に子供はいないみたい。三島君は誰もいない事を確認して私と向かい合った。


 「小森が良ければ…俺と付き合って欲しい」


 「…え?」

 

 びっくりした。でも、なんとなくだけど…私が好きというよりはただ彼女が欲しいからって感じがする。

 …それくらいの気持ちなら…付き合ってもいいかな。三島君なら気楽に付き合える気がするし…


 「…うん。お願いします」


 自分でも驚くくらい緊張していた。…でも、嫌な気分じゃない。


 「マジで!?いや、すっげぇ嬉しいけど…正直ダメ元だったから…」


 テンパってる三島君がなんとなく可愛く見えた。…うん。三島君となら…付き合っていけそう。


 「私は付き合うってよくわからないけど…大丈夫かな?」


 「大丈夫だろ?俺もよくわかってないし」


 三島君も恋愛初心者らしい。手探りだけど…なんとなくこれからの日々が楽しくなるような気がした。


 


 それからは一緒に帰る事が多くなり、昼休みもたまに食堂で一緒に食べるようになった。


 「付き合うのって…こんな感じでいいのかな?」


 「さあ?他の奴らがどう付き合ってるのか知らないし…俺達なりにやっていけばいいんじゃないか?」


 こういう人だから…付き合ってもいいと思えたのかもしれない。気を使わない相手はいつの間にか一緒にいて心地良い相手になっていた。




 休日に清香の部屋で勉強している。まあ…ほどほどに遊んだりもしてるけど。


 「…三島はちゃんと梓に優しくしてくれてるの?」


 「うん。優しいよ」


 清香は私と三島君の関係を知ってる。付き合ってしばらくした時に話したら既に知られてた。「見てたらわかる」だそうだ。


 「そう。なんとなく梓が変わってきたと思ってさ」


 「そう…かな?」


 「雰囲気が柔らかくなってる。前より可愛いよ」


 「…ありがとう」


 自分じゃ自覚は無いけど…清香が言うならきっとそうなんだろう。


 「で、どこまでいったの?」


 「…この間…キスしたよ」


 「そっか~。なら梓のセカンドは私がいただくとしますか」


 「やめてよ…」


 そんな風にじゃれ合うのも前より楽しく感じた。清香が言うように私は変わったのかもしれない。



 今日は三島君とデート。デートって何をすればいいんだろう。いつもは家とか公園でお話したり…キスしたり…

 いざデートとか言われてもよくわからないなぁ。


 「小森。お待たせ」


 「待ってないよ」


 待ち合わせの時間までまだ5分ある。私が勝手に早く来ただけ。


 「そっか。今日はさ…とりあえず買い物行こうぜ」


 「買い物…」


 「ああ。行きたい店とかあるか?」


 「……ぬいぐるみとか?」


 私がぬいぐるみが好きなのは飛鳥と清香くらいしか知らないけど…三島君なら教えてもいい気がした。誰にも教えてないだけで隠してる訳じゃないから。


 「ぬいぐるみ…うん。わかった。行こう」


 「うん」


 三島君と一緒にそういう店を見て回った。最初は居心地が悪そうにしていたけど…気付けば一緒に商品を見ていた。…三島君って柔軟だよね。

 気に入ったぬいぐるみを買う事にした。会計をしてもらいにいくとお金を払う時に三島君が…


 「これは俺に買わせてくれ。あ、ラッピングもお願いします」


 払おうとしてもダメって言われる。仕方ないので三島君に払ってもらった。

 帰りにいつもの公園に寄る。三島君が私に告白してくれた思い出の場所。良い思い出がある場所って好きになるのは私だけかな?


 「ちょっと遅れたけど…これは誕生日プレゼントって事で」


 そう言ってラッピングされたぬいぐるみを渡された。


 「加藤に教えてもらったんだけど…もう過ぎてたからさ。まあ…そういう訳だから」


 「ありがとう。嬉しいよ」


 三島君からのプレゼント。それだけで可愛かったこのぬいぐるみが更に可愛く見える。

 …私は本当に三島君の事を好きになれたんだな。最初は少し心配だったけど…今は付き合って良かったと心から言える。



 

 こんな感じで私の高校1年の生活はとても充実していたと思う。これからもこんな満たされた生活が続いていくと思っていた…


 

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