美咲 社会人

 私は地元から離れた場所に就職した。地元にいるとコージの事を思い出して辛いから。

 結局…1年で辞めちゃったけどね。先輩や上司が私をいやらしい目で見てくるのに耐えられなかった。辞める時にセクハラと感じた出来事を全て暴露してきた。私にはもう守ってくれる人なんか誰もいないから…

 退職金なのか慰謝料なのかわからないお金を渡されて辞めた。やっぱり地元に帰ろう。ずっと誰かに甘えてきた私には独り暮らしは辛すぎる…


 実家に帰って就職先を探した。…意外とあるものね。思っていたより簡単に見つかった。

 両親は私に何も言わなかった。…コージの家との関係を断ってから私達の会話はほとんどなくなってしまった。家の中は息苦しいけどこれは私が招いた結果だ。1年で戻ってきた事もあって私には何も言う事はできない。


 

 新しい職場で事務員として働く。必要な資格さえ有れば就職に困る事はほとんど無い。4年も大学に通った意味はあったのだろうか?大卒ってだけで有利なのは知ってるけど…

 こういう会社は長く続けてくれる人が欲しいんだと思う。女は産休とか必要だから事務員は少し多いくらいでいいんだろうな…結婚していきなり退社とかもよくあるそうだし。

 営業で外回りしている男性社員に声をかけられたけど…前の職場をセクハラのせいで辞めたと人事に伝えたら手を回してくれたみたい。男性社員は私に話しかけてこなくなった。

 それなりに働いていたある日…同窓会の知らせが届いていたとお母さんに言われた。

 高校の同窓会…?…コージと会えるかもしれない。私は参加する事にした。



 同窓会当日…会場は家から近い。でも…高校のクラスメイト達は私が来る事を望んでいないだろう。少ないけど友人でいてくれる子達はいたから孤立する事は無いと思うけど…行くのが怖かった。

 でも…コージに会える機会はもう無いかもしれない。行かなきゃ…もう始まる時間だ。



 同窓会の会場である居酒屋に入る。店員に案内されて大部屋に行くと…クラスメイト達が既に飲み始めていた。


 「遅れてごめんなさい」


 簡単に挨拶をして友人達の近くに行く。クラスメイト達の私を見る視線で歓迎されていないのはわかる。…ごめん。それでもコージに会いたかったの。

 コージは永井君達に守られるようにして奥のほうに座っていた。


 友人達と近況を教え合いながらコージのほうを見る。コージの友人達が物理的な壁になっていてよく見えないけど…楽しそうに笑う声が聞こえる。…よかった。コージは元気そうだ。

 飲むのはあまり好きじゃないけど、お開きになるまで友人達とお喋りできたのはとても楽しかった。


 店を出た後、私はコージの姿を探した。実家のほうにのんびりと歩いていくコージの後を追おうとしたけど…永井君に止められた。


 「加納、待て。幸司に話しかけるつもりなら俺が許さない」


 「…貴方の許可なんかいらないわよ。私とコージは幼なじみだもの。話して何が悪いのよ」


 「あれだけ傷つけておいて…更に追い打ちをかけようというのか?」


 「…私はコージに謝って…やり直したいだけよ」


 「やり直したい?……そうか。それなら行けばいい。現実を知れば諦めもつくだろう」


 永井君はそう言って歩いていった。…二次会に参加するんだろう。最初から放っておいてくれればいいのに……現実って…何よ…


 私は早足でコージの後を追った。やっとコージと話ができる。コージなら話せばわかってくれる。謝れば許してくれる。だって私達は恋人だったし…幼なじみなんだから…

 そう思っていた…



 コージは…私と話をする事を拒絶した。私があんな最低な形で別れを告げてしまったから…。

 それでも私は自分の気持ちを伝えたかった。あの時の過ちを謝って…もう1度あの頃のようにコージと付き合いたかったから。

 最後に連絡が欲しいとお願いした。コージならきっと連絡をくれると信じていたから…



 1週間…1ヶ月…半年…1年…2年…

 いくら待っていてもコージからの連絡は無かった。私からコージと連絡をとる手段が無い。…もしかしたらコージからも私に連絡できない理由があるのかもしれない…それらしい理由を考えて…自分を誤魔化しながら待ち続けた。


 …現実を知ったのは休日に自室に籠もってコージの事を考えていた時だ。

 外からおじさん達の声と…コージの声。そして知らない女の声が聞こえた。

 知らない女はおばさんの事を「お母さん」って呼んでいた。

 締め切ったカーテンの隙間から外を見ると…幸せそうなコージの横に幸せそうな顔をした知らない女がいた…

 ……そういう事。コージは私の事なんか忘れてあの女と…私はずっと…ずっとコージだけを待っていたのに…



 それから私は別の支店に異動させてもらった。…あんな場所に住む理由が無くなったから。私はずっと待ってたのに…コージは私を裏切った。もうどうでもいい。

 別の支店でも私をいやらしい目で見る男は何人もいた。…退屈しのぎに男達と関係を持った。中には既婚者の男もいた。男なんてこんなものか。同窓会の日にコージを強引に誘えばよかったな。そうすれば…もう1度やり直せたかもしれない。

 もうそんな気も起きないけどね…最後に見たコージは…本当に幸せそうだったから…

 

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