幸司 同窓会

 高校の同窓会。6年ぶりに会った友人達は当時の面影を残しつつも立派な大人の顔になっていた。

 会場となったのは実家の近くのそこそこ大きな居酒屋。大部屋を二つ貸し切っている。人数は25名。久々に会った担任は少しハゲていた。


 「お前らみたいな問題児の担任をしていたらこうもなる」


 そう言いながら笑う担任の顔は当時のままだった。懐かしいな。

 

 「…加納は来ないみたいだな」


 「…そのほうが助かる」


 「そうだな」



 始まって少し経ったくらいに1人の女が遅れてやってきた。…美咲だった。

 俺と友人達以外は詳しい事情を知らない。美咲が来たと同時に俺の周りに明弘をはじめとした友人達が集まってきてくれた。…もう吹っ切れてるのに…心配性な奴らだ。



 美咲は俺のほうを何回か見てきたが話しかけてくる事はなかった。こっちは明弘の生まれたばかりの子供の画像を見ながら盛り上がっている。邪魔はされたくない。


 「…嘘だろ…絶対にお前の子じゃない」


 「俺もそう思う。可愛すぎるよな」


 「名前は?」


 「紅葉だ」


 「モミジちゃんか。珍しい名前なんじゃないか?」 


 「秋だったからな。紅葉が凄く綺麗な頃だったんだよ」 


 「…いい名前だと思う」


 すっかり親バカになった明弘をからかいながら祝福した。俺が捨てられた時に誰より心配してくれた明弘。コイツが幸せになったのは本当に嬉しかった。

 同窓会がお開きになるまで美咲の事を忘れて楽しんだ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎてお開きになった。二次会を断り、久々に実家にでも顔を出そうと歩いていると…後ろから美咲に話しかけられた。


 「…久しぶりだね」


 「そうだな。じゃあな」


 せっかくのほろ酔いの良い気分が台無しだ。…よく話しかけてこられたものだ。


 「待って…少し…話さない?」


 「お前と話す事なんか無い。禄に話もせずに俺を切ったお前とはな」


 そう言って実家へ向かって歩き出した。…後ろから足音が聞こえる。…まあ、美咲の実家は俺の実家の隣だからな。向かう先は同じだ。


 「独り言…」


 「………」


 「あの時は本当にごめんなさい」


 何か言い始めた。…独り言だと言うなら好きに言わせておこう。


 「晃に毎日好きとか可愛いとか言われて…嬉しかったの。彼はそういう事はあまり言ってくれなかったから」


 …「彼」は確かにそういう事は言わなかったな。だから「彼」が悪かったとでも言うのか?


 「彼と別れて…晃と付き合った。しばらくして…彼の『好き』と晃の『好き』が全く違うものだってわかった」


 「……」


 「彼の『好き』は私に対して。晃の『好き』は私の…外見…体に対してだった」


 その違いがわかったからなんだって言うんだ…もう全て…お前が捨てた時に終わっているのに…


 「気付いた時には全てが遅かった。晃とは縁を切ったけど…彼とは進路は別々だったし…彼の知人は私が彼に連絡をとろうとする事を許してくれなかったから」


 俺はそんな事は聞いてないけどな。…誰かが教えたなんて言ったらソイツとは縁を切っていただろうけど。…明弘なら気を利かせてそういう根回しをしていたかもしれないな。


 「今更だけど…私は彼が好き。愛してる。彼が許してくれなくても…」


 「………」


 「独り言は終わり…」


 気付けば…実家の近くまで来ていた。


 「連絡して欲しい…待ってるから…」


 美咲はそう言って自分の実家に帰っていった。

 俺は少し考えて…実家に帰らずに今住んでいるアパートに向かう事にした。少し遠いが…歩いていけない距離じゃない。

 アパートに帰る途中で真に電話をかけた。

 何度目かのコールで繋がる。


 「もしもし?どうしたの?」


 「あ~…今、アパートに帰ってる最中なんだけどさ…真に無性に会いたくなって…」


 真の声を聞くだけで凄く安心できた。でも…今は直接会って話したい…


 「同窓会の後は実家に行くって言ってなかった?」


 「ちょっといろいろあってね」


 「ふ~ん。わかった。アパートまでどのくらいかかるの?」


 「30分くらいかな」


 「じゃあ、先に帰ってるね。あ、迎えに行こうか?」


 「いや。酔い覚ましに歩いて帰るよ。ありがとう」


 「うん。じゃあ、また後でね」


 電話を切って歩くペースを上げた。

 また美咲に傷つけられてしまった。気持ち悪い。人の心をズタズタにしやがって…真に会って…癒してもらわなきゃ…


 アパートに着くなり真を抱きしめる。…俺はまた泣いていた。辛い。苦しい。なんであの女は俺を傷つけるんだ…。

 一方的に俺を捨てて…一方的に愛してるなんて無責任な事を言う。

 

 「幸司…大丈夫?」


 真は出会った時のように…俺の傷を探るように聞いてきた。


 「…美咲に会った」


 「…何を言われたの?」


 「高校の時に俺を捨てた事を謝られた」


 そんな事は無意味なのに…


 「そう…酷いね」


 「クズと俺の気持ちが別物だって気付いたって…」


 俺と別れなきゃ違いがわからなかったのかよ…

 

 「…なんでわからないのかな?幸司はこんなにも真っ直ぐなのに…」


 「最後に愛してるって言われた…連絡を待ってるって…」


 俺はアイツを愛していない。連絡もする気は無い。


 「そんな資格無いのにね。幸司を誰よりも愛してるのは…私なんだから」


 「俺も真を愛してる。真じゃなきゃダメだ…それなのに…」


 「うん」


 「美咲に話しかけられただけでこんな風になる自分が大嫌いだ…俺には真だけがいればいいのに…」


 「幸司は治りきってない古傷を美咲さんに抉られただけだよ…仕方ないの。幸司は悪くないんだよ」


 「真…」

 

 「大丈夫だよ。私がずっと幸司の傍にいるから…だから私だけを見て…私だけを必要として…私だけを愛して…」


 「ああ…真だけいればいい…俺には真が必要だ…俺とずっと一緒にいてくれ…真…愛してる…」


 全てを忘れるくらい真を貪った。意識を失うまで真に溺れた。幸せそうな真…きっと俺も同じ表情をしている。…真に出会えて…本当に良かった…

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