幸司 社会人

 俺達は社会人になった。2人の勤め先は少し離れているが、車で通勤するから問題ない。実家から徒歩30分ほどのアパートで真と同棲しているので両親がしょっちゅう来る。


 俺の仕事は営業職もあるが新人のうちは書類を作ったりする事がメインだ。会社の事をわかっていないうちに営業なんか出来る訳が無いとの事。その通りだと思う。

 残業とかはほとんど無い週休2日の勤務態勢。給料は手取りで21万。高いのか安いのかよくわからないが…金額に見合う仕事をしている実感はない。

 真もだいたい定時で帰ってくるので思っていたより2人の時間を作る事が出来た。真は帰ってくるなり俺に抱き付いてくる。俺も研修で真と数日離れただけで不安で仕方なかった。だからこうやって真が傍にいると安心出来る。

 結婚を考えているが、お互いの両親に負担をかける気は無い。俺達は俺達の手で式を挙げたい。俺達がちゃんと自立した証明として…心配をかけた両親を安心させてあげたいからだ。

 子供は欲しいけど優先順位を決めて順番にこなす。最初は結婚だ。筋は通したい。


 


 半年も働くと仕事にも慣れてくる。社内で親しい人は出来たけど…飲み会とかは極力遠慮させてもらっている。真との時間を減らしたくないから。

 仮に飲み会があってもお互いに送り迎えができるから大丈夫なんだけどね。

 

 明弘に久しぶりに会った。明弘も地元で就職したそうだ。驚いた事に明弘はもう結婚していた。相手は大学の先輩だそうだ。俺の心配ばかりで自分の事を疎かにしていないか心配だったけど…コイツは本当にしっかりしてるな。機会があれば会わせて欲しいと伝えると喜んでいた。

 俺が真と同棲中だと言うと本当に安心したような顔をしていたよ。


 


 正月休みは真の実家で過ごす事にした。真の妹にお年玉を渡したが…大学生にお年玉って渡すものなのだろうか。ウチではもらってなかったが…

 真の両親と飲みながらまったりと過ごした。ウチの実家だとこんな平和な正月は過ごせないだろう。癒やされる…

 ゴロウはもう高齢らしい。モフらせてくれるのはありがたいが…ちゃんと覚悟はしておかないとな。真もかなり可愛がっているから落ち込むだろうし…


 


 社会人2年目。明弘が奥さんを連れて家に来た。


 「永井の妻の環です」


 「神山 幸司です」


 「高峰 真です」


 環さんは俺達の1つ上だそうだ。明弘とは本当に仲が良さそうで安心した。


 「環さん…お子さんが?」


 「環でいいですよ…って言うか敬語はもう無しで。挨拶はちゃんとしたから気楽に話しましょう?」


 「うん。わかった」


 「お腹の子は5ヶ月目。女の子よ」


 「明弘がパパになるのか…」


 「ああ…お前もすぐにわかると思うが…毎日が不安でいっぱいだ」


 「不安?」


 「環がどこかで転んだりしてないかとか…お腹をぶつけたりしてないかとか…」


 相変わらずの心配性だな。…まあ、そう言われると不安な気もする。


 「いい旦那さんだね」


 「過保護なのよ」


 「でも…嬉しいでしょう?」


 「まあね」


 真と環さんは仲良くやれそうだな。


 「幸司君…だったわね」


 「ああ」


 「高校の頃の話は明弘から聞いたわ」


 「そうか。まあ…隠してはいないから構わないが」


 「…部外者が口を出していいかわからないけど…結果として真と会えたなら良かったのかもしれないわね」


 「…その通りだな。美咲が俺を捨てたから真が俺を拾ってくれた」


 「貴方達はとてもお似合いよ。美咲って子の事はわからないけど…真と貴方が一緒にいるのは凄く自然な感じがする」


 「ありがとう。貴女と明弘もお似合いだ。心配性な明弘には貴女みたいな芯が強そうな女性が合ってる気がする」


 「フフッ。ぶっきらぼうだけど優しいのね。明弘が気にかける訳だわ」


 「…幸司。加納の事なんだが…どうも実家に帰ってきているらしい」


 「…そうか」


 「もしかしたら町中で会う可能性もあると思ってな」


 「ああ。ありがとう。頭に置いておくよ」


 今の俺には真がいる。美咲に会ったところで何も無いと思うけどな。


 「ん~…子供か…」


 「…真も欲しいんでしょう?」


 「う…うん。…欲しいな」


 そう言ってこちらを見る真。…いや、先に結婚してから…俺も欲しいとは思ってるけど…


 「慌てなくても大丈夫よ。2人なら作ろうと思えばすぐでしょう?」


 「そうかな?」


 「私なんか明弘が泣いてもやめなかったからね…」


 「…明弘」


 「聞くな」


 子作りって大変なんだな。その時になったら覚悟を決めよう。


 「泣くまでやめない…」


 真。そこに反応するな。


 「名前とかは考えているのか?」


 「考えたがほぼ却下された」


 「カタカナでアイリスとかクララとか…却下するに決まってるでしょう」


 「…明弘」


 「真っ先に浮かんだから良い名前だと思ったんだが…」


 コイツは思ったより残念な奴なのかもしれない。

 そんな感じで世間話をして過ごした。環さんが妊娠中じゃなければ酒を出すのも良かったが…それはまたの機会だな。

 帰り際に真と環さんが連絡先を交換していた。お互いにここで出来た初めての友人なのかもしれない。明弘が環さんを連れてきてくれて良かった。



 ある日、ポストに同窓会の案内が届いていた。高校の同窓会…か。嫌な思い出はあるが、友人達に救われたのも事実だ。友人達と集まって話すには良い機会かもしれないな。

 真に同窓会に行く事を伝える。会場はここから歩いていけるくらいの場所だ。送り迎えは必要ないと伝えると環さんに会いに行くと言っていた。明弘も参加するだろうから環さんも暇かもしれないな。

 さて、久しぶりに友人達と会える。楽しんでくるか。

 

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