第95話「王都攻防戦」

 ついに、援軍を得て勢いを増す帝国軍は王都へと流れ込んだ。

 王都攻略を任されたのは帝国六将軍の一人、スケイル・カスケードだ。


 スケイル将軍は、ネズミのような細いヒゲをビンビンと指で弄びながら副官であるスネアーの報告を聞く。


「すると国王は逃げておらんのだな」

「はい、ルティアーナ国王ラウールは、自ら街を守る兵士たちの前に姿を見せて、最後まで王都の民と運命をともにする覚悟だと宣言したそうです」


 帝国軍にも密偵はおり、王都の中の様子は伝わってくる。

 ヴィクトル皇帝より五万の軍勢を与えられたスケイルは、狡猾そうな笑みを見せた。


「そうか。千載一遇の好機だな、まず兵を一万ずつに分けて王都の四方を囲むのだ。ラウール王を逃してはことだ。アリの子一匹逃さぬようにせよ」

「なるほど、四方から攻撃する手はずですな」


「バカを言うな。王都を囲む要塞は健在なのだ。わざわざ被害を出してどうする。大軍でぐるっと囲んでおけばよいのよ。そのようにしておいて我々が指揮する一万で、あの軍師ハルトが崩してくれた安全な道から一気に攻める」


 ルティアーナ王国の王都には、それを囲む七つの丘があり巨大な砦が築き上げられ、高度に要塞化されている。

 本来であればそれによって、王国の四方の間道は守られていたのだが、王都のクーデター事件の時に、そのうちの『パラティヌス』、『アウェンティヌス』の二つの要塞がハルトの手によって完膚なきまでに打ち砕かれて未だ補修もままならない状態であった。


 軍師ハルトが攻めろと用意してくれたような、この状況を帝国軍が見逃すはずもない。

 いや、それどころかこの状況になったのは偶然ではなく、全てはあの偉大なる皇帝陛下が仕組んだことなのだ。


 さすがは、女神ミリスが帝国に与えた恩寵おんちょうとまで謳われた天才皇帝である。

 この空前絶後の大戦略に、スケイルはひれ伏す他はない。


「しかし、敵は寡兵とはいえ老王自らが指揮をして守りを固めており、街中には至るところに防衛網が敷かれて民兵も加わっているとの報告ですが」


 スケイル将軍たちの周りには、虎の子の鉄騎兵六千騎がいる。

 それと十門の大砲に、四千の兵もある。


 しかし、敵の数も一万を超えているとは予想されるので、王国の防衛軍が防衛網を張っている広大な王都を攻めるにはちょっと心もとない。


「クックッ、何のために奴らがいるのだ。危険な先鋒は奴らに任せるのよ。上手く行けば帝国の兵を損なわずに王都が落とせるであろう」

「なるほど。さすが将軍閣下。相変わらず、こすっからい……いえ、効率的な作戦ですな」


 身近で仕えていると顔が似てくるのか、スケイル将軍と同じくズルそうな顔をしている副官のスネアーもニンマリと笑う。

 彼らの視線の先には、すでに一万を超える規模になっている騎士オニールが率いる義勇軍がいる。


 王国貴族を殺して反旗を翻した彼らは、帝国義勇軍と名乗っていたが、元は王国の反乱軍だ。

 反乱軍と王都の防衛軍をぶつけ合わせれば、帝国は労もなくこの戦いを勝利に導けるというものだ。


 あまり帝国軍人らしい正々堂々たる戦いではないが、効果的な作戦といえる。

 スケイル将軍は、五十過ぎでネズミのようなヒゲをピンピンと生やしたあまり風采の上がらぬ痩せぎすだ。


 その貧相な容姿を帝国軍の他の将軍には『痩せネズミ』と影でバカにされているが、決して見た目通りの無能な男ではない。

 大事な王都攻略をヴィクトル皇帝より直々に任された将軍なのだ。


 スケイルは、皇帝麾下の将軍には珍しく貴族出身でもともと門閥貴族派の准将だったのだが、皇太子となったヴィクトルの才能を見出すとすぐさま鞍替えして這いずり回るように忠勤を尽くし、地味な功績を積み重ねてここまで出世してきた。


「軍師ハルトなんかと戦わされることを思えば、王都攻略の任につけただけ我々は僥倖というものだ」

「先に王国の反乱軍に攻めさせて使い潰したのち、後から我らで美味しいところをいただく手はずですな」


「お主もわかってきたようだな。スネアー」

「はいそれはもう。スケイル閣下の元で勉強させてもらっておりますからして」


 商人のように手もみする副官スネアーに、スケイルは苦笑いする。

 楽な戦いばかりを求め、こんな悪巧みのようなことを言っているからスケイルとスネアーは、他の将軍たちにバカにされる。


 だが、これも必要な仕事だと割り切っている。

 スケイルには、一番手柄を上げて大将軍になるような野心はない。


 自分はそんな器ではないと、自らの小ささを理解しているのだ。

 そこがスケイルの一番の強みかもしれない。


 痩せネズミで結構。

 自分にしかできぬ姑息な仕事をしてこそ小才しかないスケイルも皇帝に認められ、六将軍としての地位を守ることができるというものだ。


 彼も帝国六将軍の一人、仕事はきっちりとやるつもりである。


「ラウール王の姿が見えたら、鉄騎兵六千騎を率いて一気に勝負を決める手はずで行くぞ。突撃の準備はしておけよ」

「ハッ、それでは反乱軍、ではなかった帝国義勇軍を指揮する騎士オニールに先に行くように命じておきます」


 軍師ハルトがいなくても、軍政改革をやっていたはずの王国防衛軍には警戒が必要だ。

 向こうだって無防備な間道から攻めるとわかっているだろうから何か罠があるかと思ったが、兵を進めてみても崩れた要塞からの攻撃はなかった。


 まったくの無人だったのだ。


「やけに静かだな……」

「崩れた要塞の跡を調べさせますか?」


「いや、必要ない。もし伏兵が隠れていて後ろから攻撃されても、王都を囲んでいる兵と挟み撃ちにしてやればいいだけだからな」


 抜かりないスケイルは、そのことも予想して囲みとして配置した三方の軍団長に臨機応変に動くように命じてある。

 しかし、本当になにもないとは……。


 要塞が崩れたとはいえ、丘は防衛拠点にはなりえる。

 王都の防衛に、大砲くらいは設置しているかと思ったから拍子抜けした。


「城門は硬く閉じられていて守られているようです。義勇軍を突撃させますか?」

「待て待て、雑兵といえども無駄に使うのは忍びない。こんな時のために拠点攻撃用にヴィクトル陛下より大砲を賜ったのだろうが」


「それがありましたな。すぐ準備させます」


 副官のスネアーの指示で、すぐに十門の大砲が運ばれてくる。

 大きな王都の大門に向かって砲撃を加えて、見る間に粉々になった。


「凄まじい威力だが、このような兵器の撃ち合いになる戦争とは恐ろしいものだ」

「帝国義勇軍を突撃させますか」


「ああ、これで後は街を占拠するだけだから存分に働かせよ」


 大門さえ落とせば楽勝とスケイルは思ったが、街に入って侵攻は急に停止する。


「どうした」

「それが、先の王都の戦いで壊れた残骸などを利用して野戦陣地が街中に張り巡らされているようでして、思うように軍が進まぬそうです」


 街中に攻め込んだ帝国軍を待っていたのは無数のバリケードであった。

 徹底抗戦の構えの王都は、街が完全に要塞化されていたのだ。


「敵が障害物を作っているのは密偵の報告でわかっていたことだ、こういうときこそ大砲であろうが!」

「なるほど、やらせてみます」


 スネアーの命令で何度か散発的な砲撃が繰り返されたが、砲撃を受けた建物が崩れるぐらいで後ろから見ているスケイルにはちっとも進んでいるようにみえない。


「どうしたのだ」

「それが、狭く入り組んだ路地が多いので大砲の使用も効果的にはいきませんようでして」


 小高い丘でもあればいいのだが、路地の入り組んだ街中では設置するにも困る。

 砲兵隊に指示を出す副官のスネアーは、慎重と言うには少し度が過ぎるほどの臆病である。


 不用意に前に出して敵に狙撃されて貴重な砲兵が失われるのを恐れて、なかなか大胆な運用ができないでいた。

 しかし、近代兵器への理解が浅いスケイルは、あれほどの威力を見せた大砲がありあわせの物で作られたバリケードに阻まれることが納得いかない。


 じれ続けていたスケイルは、ついに決断を下す。


「もういいスネアー。貴様には兵四千を預けるから後ろから援護しろ。私は鉄騎兵六千騎とともに突撃し、一気にこの勝負のケリをつける」

「この銃撃戦の中をですか?」


 敵はバリケードに寄り添って、銃で狙撃してくるという厄介な攻撃を繰り返している。

 そんなところに突っ込んでいくのかと、慎重派の副官は怪訝な顔をする。


「すでに敵の攻撃は見切った。確かに士気は高いが、王都の防御軍が使っている銃は我々と同じものだ」


 帝国が正式採用しているマスケット銃とほぼ互角であるとみた。

 ハルト軍団では、すでにマスケット銃よりも命中精度の高いライフル銃を使っていると聞いたが、おそらくこちらでは配備が間に合わなかったのだろう。


 それどころか、よくよく見れば民兵には銃すら行き渡っていない様子。

 密かに恐れていた大砲の攻撃もないくらいなのだから、敵に恐れるほどの戦力はないと確信したのだ。


「マスケット銃の散発的な銃撃程度では、一丸となった鉄騎兵団はやられん。バリケードも立てこもる市民軍も、全て騎兵の突撃力で押し切ることができるだろう。これを見ろスネアー」


 スケイルは密偵より手に入れた王都の地図を示す。


「いいか、騎士オニールが指揮する帝国義勇軍が戦っている前線がここ、我々がいる場所はここだ。本来、正門から大通りを抜けて王城まで直進できる。オニールたちは、障害物の巧みな配置と敵の誘いに惑わされているのだ」


 障害物を片付けて進めば、王城まで広い道を突き進むことができるはずなのだ。

 そこを突破できずに、裏路地に誘い込まれてしまったのは騎士オニールたちが、数は多くても所詮寄せ集めの雑兵であったということだ。


 だが、帝国軍の精兵である鉄騎兵六千騎は違う。

 たとえ鉄砲の弾を雨あられと受けようとも、敵のバリケードを打ち砕き、味方の屍を乗り越えてでも決して敵に後ろを見せぬ勇猛果敢な騎士ばかりだ。


 スケイルは、見た目こそ貧相な痩せっぽちだが機敏な男だ。

 王手を仕掛けている今だからこそ帝国軍が優勢であるが、背後からあの軍師ハルトの指揮する軍団が迫ってくれば危ういと感じている。


 ここは少し無理をしてでも、早く王都を陥落させて戦争を終らせるべきなのだ。

 虎の子の鉄騎兵六千騎を使い潰すことになろうともだ。


 いや、むしろそれがヴィクトル皇帝に総数五万もの兵を賜ったスケイルの役目である。

 ……後世から見ればあまりにも先走った判断だが、焦ったスケイルがそう思ってしまったのは、まだ見ぬ『幻の魔術師』の影のせいかもしれない。


「標的のラウール王は、王城でしょうか?」

「巧みに逸らそうとしているが、徹底して王城へのルートを塞ごうとしているのが見て取れる。いなくても構わん。王が城にいなかったとしても、王都の象徴である城を落としてしまえば敵の士気は崩壊する」


 王都は完全に囲んでいるのだから、敵の中枢を崩壊させれば結果は同じことだ。


「将軍閣下、もし万が一突撃が上手く行かなかった場合、私はどうすればよろしいですか」


 突撃を前に不吉なことを言ってくれる。

 スケイルは内心でムッとしたが、スネアーの懸念は当然。必要な命令だと考え直した。


「武運拙く私が流れ弾にでも当たって死んだら、副官のお前が指揮を引き継いで包囲攻撃を続けて城を落とすがいい。それでは、行くぞ!」


 運悪く前線指揮官であるスケイルが死ぬ。

 それ以外に作戦の失敗はないという自信を込めて言い放つと、スケイルは自らの愛馬にまたがり、鉄騎兵六千騎とともに大通りをひた走った。


 突如として突撃してくる鉄騎兵を前に、バリケードで抵抗していた防衛軍兵士は決死の銃撃をしかけるが、重騎兵の大群は巨大な暴力である。

 ちゃちなバリケードごと、抵抗していた兵士たちは踏み潰されている。


「いける! いけるぞ!」


 バリケードにこもる銃兵を前にして、いかに前面を鉄で覆っている騎兵といえども次々と倒れていったが、それでも帝国騎士たちは敵と味方の屍を轢き潰して前に進んだ。

 大通りを抜けて、美しい噴水がある広場を通り抜けて、そこから王城へと至る道に突進しようとするその時だった。


 ダダダダダダッ!


 これまでのものとは比べ物にならないほど硬く覆われたバリケードの上から、ガトリング砲が火を吹いたのだ。

 運悪く前にいた鉄騎兵は全て蜂の巣にされた。


「ここで連発銃だと、クソッ、まだあんなものがあったか! ノルト大要塞攻略時に使い切っていたと思っていたのに。一旦広場まで退却しろ!」


 ここでもスケイルの判断は機敏であった。

 凡将であれば、予定通りの突撃に固執して被害を増やすところである。


 それを全く足を止めずに即座に撤退を指示して、被害を最小限に喰い止める。


「どうしましょうスケイル将軍!」

「安心しろ! むしろ、ここで連発銃を使う敵は愚かよ。連発銃は素早く移動できない。避けて通ればいいのだ、王城へと至る道はここだけで……」


 ……ないと、言おうとした瞬間であった。

 後方で、爆発が起こる。


「敵の大砲の攻撃か!」

「いえ、そのようなものは見当たりません!」


 そう側近が言った瞬間、また広場の別の場所で爆発が起きる。


「ええい、狙い撃ちされているのか。全軍、路地まで退避するんだ!」


 スケイルがそう指示するが早いか、広場は危ないと感じた騎士たちは我先へと広場から八方に広がる路地に逃げ込もうとする。

 そして、そこで続けざまに新たな爆発が起こった。


「うわあ、なんだこれは!」

「どっちにいっても死ぬぞ!」


 爆発に慌てふためく騎士のわめきと馬のいななきで、広場や通路はパニック状態に陥った。

 スケイル自身も、「慌てるな、落ち着け!」と叫びながら、どこに行けばいいのか右往左往とするばかり。


「そ、そうか。思い出したぞ、これは地雷だ。お前ら、足元に爆弾が仕掛けられているのだ、不用意に動く――」


 それが、スケイルが最後の言葉だった。

 不幸なことに、側近が地雷を踏んでしまったのだ。


 地雷を踏んだ騎士は死んだ。

 スケイル自身、直撃は避けられたものの馬ごと吹き飛ばされた。


「う、ぐ……」


 鼓膜が破れたのだろう。

 キーンとした耳鳴りの中で、もうもうとした煙に巻かれる視界の中で、敗走していく鉄騎兵たちを眺める。


 爆発の衝撃でスケイルの胸に突き刺さった破片は、致命傷であった。

 おぼろげな意識でスケイルが最後に思ったのは、将器の小さい自分よりもさらに小物であるスネアーの指揮では、この敵には勝てぬだろうなということだった。


     ※※※


 王都に攻め寄せた帝国軍にとって不幸だったのは、指揮を引き継いだ副官のスネアーがスケイル将軍の予想通り軍を統制しきれなかったこと。

 幸運だったのは、その代わりに騎士オニールという有能な指揮官がいたことだった。


「スネアー殿、何をやっている!」


 騎士オニールは、敗走する鉄騎兵たちを止めることもできないスネアーに詰め寄った。


「そう言われても、しょ、将軍閣下が戦死されたのだぞ!」

「そんなことを言ってる場合か。このままでは、鉄騎兵の敗走に巻き込まれて全軍総崩れになるぞ」


 そうなれば、騎士オニールたちがここまでバリケードを突破してきた苦労が水の泡だ。


「じゃあ、どうすればいいのだ」

「まず軍の立て直しをすべきだ。ここで防衛ラインを引いて持ちこたえる。我々義勇軍は持ちこたえているのだぞ」


 地図を示して力説するオニールに、スネアーも少し励まされたようだ。


「そ、そうか。うちもまだ四千の兵は残っている」

「それでは足りない。王都の囲みで遊ばせている三万から兵を割いてくれ」


「しかし、そんなことをすれば王都の囲みが崩れる」

「もとから敵に逃げるつもりなんかない。それどころか、帝国の大軍が王都を囲んでいるだけでは逃げ場を失った敵兵の士気を上げるだけだ」


 窮鼠猫を噛む。

 敵を追い詰めすぎないのは兵法の常道である。


「し、しかし。将軍閣下の作戦では」


 未だにそんな事を言うスネアーの首根っこを押さえて、オニールは叫んだ。


「スケイル将軍は死んだ! じゃあ残り三万の兵を使って王都を残りの三方から攻めさせろ。今すぐ三方に配置した軍団長に命令書を送れ! まだ戦争は終わってないぞ、我々には援軍が必要なんだ!」

「しかし、他の三方は要塞がまだ残っている」


「この期に及んでそんなことを言ってるのか! 試しに要塞を攻めさせてみろよ。もはや戦略的価値のない要塞なんかに多数の兵は置いてない。街中こそが敵の主戦場だ。将軍を殺られてまだわからないのか、我々はまんまと誘い出されて罠にハメられたんだよ!」


 そう言われて、スネアーもようやく正気に返った。

 臆病ですぐ狼狽する弱点はあるが、そこまで言われて状況が見えないほどスネアーもバカではない。


「陛下への報告はどうする」

「将軍が殺られたんだ。なんだったらあんたが報告にいってもいいぞ」


 あの恐ろしい皇帝陛下の逆鱗に触れることを恐れて、目を泳がせるスネアー。


「わ、私は……」

「冗談だ。ただ陛下には正直にご報告するのを勧める。我々は、将軍と六千の騎兵を失ったが、逆に言えばそれだけだ。まだ十分に勝機はある!」


「騎士オニール、お前の言う通りにすれば勝てるか?」

「我々帝国義勇軍は、王国貴族を殺して反旗を翻してしまったのだ。私には彼らを率いる責任がある! もう後には引けない、絶対に勝つんだ!」


 スネアーは、コホンコホンと咳き込むと、襟元を整えて深呼吸して言った。


「騎士オニール。文官出身の私に前線指揮官は無理だ……なので、この場の最高位にある者として、特例ながら全軍の指揮権を一時的にお前、いやそなたに預ける。陛下には私が手紙をしたためよう」

「大恩あるヴィクトル陛下の御為に、謹んで命令をお受けする」


「よし。じゃあ、防衛ラインを再定義しよう。十門ある大砲なんだが、こことここに設置して敵を砲撃で喰い止めてはどうだろう」

「おお、すごいじゃないか」


 前面には押し出さず、大砲を建物の上や高台などに設置することを提案するスネアー。

 これほど冷静な判断ができるなら、スネアーが指揮官でも良かったんじゃないかと騎士オニールは笑う。


「前から、大砲は防御的に使ったほうがいいんじゃないかと思っていたんだ。次にだが……」


 指揮官としての責任さえなければ、スネアーは意外に有能な軍師なのだ。

 たまたま相性がよかった二人の指揮によって、王都を囲む帝国軍は持ち直していくのだった。


 しかし、早期の王都攻略はやはり難しく、王都攻防戦は膠着状態へと持ち込まれていく。

 そうして帝国軍の背後には、戦死したスケイル将軍が恐れていたハルトの軍団が迫っていた。

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