第78話「英雄の帰還」

 ハルトに恩賞が与えられて辺境伯への叙勲があったのに続いて、レンゲル兵長たちハルト大隊の兵士にもその救国的働きにふさわしい恩賞がラウール王より直々に与えられた。

 元より騎士であったハルトの副官エリーゼは、故郷のカノンに領地を与えられて男爵となった。


「私の領地は、ハルト様に差し上げます」

「エリーゼも、家を復興させたほうが良いんじゃないんですかね」


 エリーゼは、カノンの街に古くからあるマルファッティ家の一人娘なのだ。

 元平民のハルトとは違い、下級ながらも生まれつき貴族の家柄なので令嬢と言ってもいい立場だ。


「それでは、もらった領地でハルト様が飲むコーヒー農園でも作ってみましょうか」

「南部は温かいから、もしかしたら育つかもしれませんね」


 エリーゼとそんな他愛もない会話をしていると、少年兵のボブジョンが勲章を掲げてやってくる。


「軍師様、見てください。俺も、騎士になっちゃいましたよ!」


 ラウール王から直接、勲章までもらって舞い上がっているようだ。

 後からやってきたレンゲル兵長が、「王城ではしゃぎすぎるな」と若いボブジョンに注意する。


「レンゲル兵長も准男爵ですか、これで貴族の仲間入りですね」

「貴族なんて照れくさいですがね」


 そう言いながら鼻をこするレンゲル兵長も、嬉しさを隠せない様子だ。

 最後に、今回の恩賞を巡って門閥貴族とほとんど喧嘩と言っていい勢いで粘り強く交渉していたルクレティアが戻ってくる。


「ハルトの言う通り、領地には目もくれず門閥貴族どもからありったけの鉱山の権利を奪ってきたわよ! オリハルコンにミスリルに金に銀に鉄に銅によくわかんないのまで、とりあえず全部奪ってきたわ!」

「ありがとうございます、助かりますよ!」


 鉱物資源は単純に金にもなるが、これからのために必要なものだ。


「あと、王国南部の商都ナントの行政権というのももらっといたわ、こんなの何に使うの?」

「それはあとで凄く役に立つんですよ」


 ハルトが喜んでいるのを見ると、ルクレティアも嬉しそうに笑った。


「そう、役に立つなら良かったわ。あと、これでここでの仕事も全部終わったから、早速ハルトのお願いを聞かなきゃね」

「え、いやいや、お願いはもう聞いてもらいましたよ。鉱山の権利と商都の行政権で十分です」


「えー! この私がなんでもするのよ。もっと他にお願いはないの?」

「お気持ちはありがたいですが、とりあえず欲しい物は根こそぎいただきましたからね。まあ、他はおいおい考えるとしましょう」


「そっか、追々ね」


 こういう受勲式の後は、お決まりのオープン馬車でパレードである。

 ハルトはこれをやるのは二回目だった。


 やっぱりあるのかと、辟易する。


「受勲式の後のパレードってなんとかならないんですかね」

「あら、ハルト。こういう儀礼は大事なのよ」


「そうなんでしょうけどね」

「貴族の……というより、凱旋は英雄の大事な仕事よ。ほら、みんな歓迎してくれているんだから」


 どうもこの手の派手なイベントは苦手なハルトである。

 今だけのことだし色々と得るものはあったのだから、これぐらいは我慢すべきか。


 ハルトは、ルクレティアと一緒の豪奢なオープン馬車に乗せられて王都を一周することとなった。

 ついこの間まで反乱騒ぎが起こっていたというのに、王国の市民たちはそれを忘れたかのように王を救った英雄たちに惜しみない拍手を送って、救国の英雄である軍師ハルトに競うように花束を送って月桂冠をかぶせた。


 国王派による国政改革も民衆には受けが良いらしく、悪かったのは全部オズワールとラスタン。

 そういうことで丸く収まってしまったのだった。


 世の中こんなものだろうとハルトも思う。

 まあともかくもこうして、ハルトたちは歓呼する王都の市民に見送られて古巣のノルト大要塞へと無事に帰還するのであった。

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