第47話「亜人属領攻略、前哨戦」

 亜人属領は、アラル山脈寄りの北の山に住むドワーフの村、手前の林に住む獣人の村、奥の森に住むエルフの村で構成される。

 ハルト大隊より兵五百、王国北方軍の騎士が三百の小勢を率いて、亜人属領の入り口まできた。


「ドワーフの山村は、お主の側に付くと決定したぞ。少ないが兵も出す」


 なんと鍛冶屋のドルトムが、山に住むドワーフたちに話をつけて、二百名程度の援軍まで連れて駆けつけてくれたのだ。

 ドワーフたちが早々に代官を見限り、こちらに味方してくれるのは思わぬ僥倖だった。


「増援はありがたい。ドルトムたちは、戦闘工兵を頼めるかな」

「なんだ戦場で工作をするのか? 工作なら、ワシらほど上手いもんはおらんぞ」


 ハルトがドワーフたちに贈っていた大量の酒が、ドワーフの山村にも流れ込み、こちらにかなりの好印象を持っていたようなのだ。

 なにが功を奏すかわかったものではない。


「獣人の村にもこっちについたほうが良いと勧めたんじゃが、お主の怖さを全く理解しておらん。帝国軍に勝った天才軍師に逆らうとは本当にバカな連中じゃ」


 獣人たちの兵が待ち受けている林を抜けないことには、エルフの村を救援にいけないから避けて通るわけにもいかない。

 サクッと倒して、森まで進まないといけないだろう。


「獣人たちは、代官の軍が怖いんだろうからしょうがない。それよりドルトム、例の物は持ってきてくれたか」

「おうよ。いつでも使えるようにしてあるぞ。それと、これはおまけじゃ」


 ポンと手渡されたのが、現代式の拳銃ハンドガンだったのでびっくりする。


「おい、まさか量産したんじゃないだろうな!」

「ワシがインゴットから削り出した一点物じゃ。心配せんでも、そこらの鍛冶屋にはおいそれと真似できんわ」


「そうはいってもなあ、頼むよドルトム」

「ワシなりにお主のことを考えてのことじゃぞ。重い武器は持ち歩きたくないんじゃろ。だったらその拳銃ハンドガンってやつが、護身用に一つあってもいいかと思ってな」


 ご丁寧にホルスターまで用意してくれている。


「軽くて扱いやすい武器はほんとにありがたいんだけど。おいおい、ライフリングまで彫ってるのか。すごいな」

「ライフル銃の切削工具を流用しただけじゃわい。仕組みがわかれば、小型化は簡単じゃ」


「ドルトムが優秀なのはわかったよ、だけど」

「わかっておるわい。ワシらは一蓮托生じゃ。お主の命令なしに、勝手に使ったりはせんよ。工房で試し撃ちはしておいたがな」


「わかってるならいいけどね」


 ドルトムたち、ドワーフの口の堅さを信用するしかない。

 ただし、一度作った兵器は、どんなに秘匿してもいつか情報流出すると覚悟もしている。


 だから、どんどん新兵器を造られるとその対処に困るのだ。

 ファンタジーのチート技術まで援用して何でも造ってしまいそうだから、ドルトムの前でうっかり口を滑らさないようにしないとなあ。


 そうため息をついているハルトのところに、偵察から報告が届いた。


「前方、獣人の戦士団が接近しつつあります。その数一千!」


 ダルトン代官軍の樹甲兵きこうへい団とやらはこないのか。

 敵がなにを考えているかは知らないが、順々に各個撃破できるならばありがたい。


「さて、さっさと片付けますか」


 こっちの準備は万全なのだ。

 ハルトがパンパンと手を叩いて、出陣を命じようとしたその時。


「ハルト、私たち騎士隊が先陣を切るわ!」


 やる気満々の姫様が、抜剣した。

 どうしようかなと、少し思案して許可を出すことにした。


「姫様。さっと当たって、勝てそうになかったらすぐ下がってください。こんなところで被害を出されても困りますからね」

「もちろんよ! 敵を粉砕してくるわ!」


 絶対わかってないな。

 かといって、姫様に細かい作戦を話しても、そのとおり上手く動けるわけもない。


 地の利は向こうにあるし、林のような動きづらい地形で騎士隊が満足に活躍できるはずもないのだが、そこはエリーゼに任せてみるかと思った。


「エリーゼ。作戦通り、頼めるか」

「はい! お任せくださいハルト様!」


 エリーゼは、颯爽と馬に飛び乗ると、姫様に随伴して行った。

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