第61話 泣かないで
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「痛い~、いたい~いだいよぉぉ~!」
「ちょっと待ってろ!」
腕の痛みがMAXで訴えて、激痛で泣きじゃくる美嗣の腕をカインは布で押さえた。血を拭き取ると肉がぱっくり裂かれ、骨まで見えそうだった。カインは少し切り口を弄り状態を確認する。
「あああぁぁぁぁ!なんで弄くるのぉ!」
「骨に異常がないか確かめたんだ。取り敢えず縛っておく。すぐにアリアナを呼んでくるから待ってろ」
美嗣の腕をきつく縛って止血する。
カインは桃王に美嗣を任せて、街の方へ走って行った。美嗣はしばらく痛みで泣いていたが、出血のせいで意識が朦朧としてきた。
だが、痛みは治まらない。激痛と疲弊に苦しんでいると、急に桃王が顔を近付けてきた。
「んっ、んん?」
そのまま桃王は美嗣の口にかぶり付く。いきなりの接吻に驚く美嗣だったが、更に混乱したのは口の中に苦い何かを流し込まれたからだ。味的に葉っぱか何かだろう。唾液と混ぜ合わさった生薬を口移しされ、美嗣は感情の置き所が分からなくなる。
「何飲ませたの?」
「
「そうなんだ~」
嬉しさ半分、当惑半分の美嗣。渡された清生の花びらを食べていると、桃王が美嗣の体を引き寄せ膝の上に乗せる。
「横になっていた方がよい。花の匂いを嗅いで心を落ち着かせるのだ」
おっほほ、ムチムチの太股が柔らかいですな~!それに、ももちゃんからいい香りがする。花の香り、桃かな?
激痛の中でも変態根性が勝り桃王の膝枕を堪能する。さわめく風の声、生類の息づく音、暖かい日差し。先程までの喧騒と闘争が嘘のようであった。
清生が効いたのかズキズキする痛みは和らいだ。膝の中でうとうとしていると、水滴が頬を伝う。雨かと思って空を見上げると、桃王の瞳から雨が流れる。
「ももちゃん、大丈夫?」
「すまぬ。急に涙が……」
桃色の瞳から零れる涙を拭ってあげたいが、左腕は動かせなかった。
「我のしてきた事は間違っていたのであろうか?民から憎まれ、失望され、天人の威光を落としてしまった。……我は天女失格である」
「そんなことないよ……ももちゃんはちゃんとやっていたよ。あいつらが傲慢で短慮なだけ……」
もっと強く励ましたいが、もう活力がない。なんとか体勢を変えて右腕を桃王に伸ばす。
「泣かないで、ももちゃん。推しが悲しいと私も悲しい」
「おし……?」
「うん、ももちゃんは私の推し!私の大好きなキャラ!」
美嗣の破顔に桃王の悲観も少し和らいだ。
彼女はそのまま疲れて眠ってしまう。数分後に、カインがアリアナ・レイを連れて戻ってきた。3人が階段を登るのが見えた瞬間、桃王の後ろにある門が開いた。
「天王堂が……」
ここは桃王山の中腹。天王寺から本堂へ繋がる石段の途中であった。『天離の契』が交わされてから、50年間閉ざされていた道が繋がった。
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