第58話 ガチ恋距離!


 蓬国に来てから2ヶ月が経った。

 依頼は配達を中心に、魔物の討伐に、飲食店の手伝いなど多岐に渡った。最近は風鈴亭で食事をするのが日課になっている。


 美嗣が桃州に来て最初に襲った【未遂】女の子・美鈴メイリンがいる茶亭であった。美鈴とも仲良くなり、彼女の創作料理の毒味をする事もある。


 最初に天女に会ってからまだ他の天人とは会っていないが、蓬国での生活を楽しんでいる。


 李州への配達があり、北の玉珞ぎょくらくへ向かう。今回の荷物は食料が多く、着いた先にはキャンプ場が出来ていた。炊き出しを行っている人達に野菜や肉を届けると、野宿生活をしている人が気になった。


「あの人達って浮浪者?」

「いや、難民さ。ほとんどはスヴァーシの人達さ」


 列を作って並んでいる人達の容姿は白髪や銀髪が多く、北方民族の特徴が見られる。受け取りのサインを貰おうとしたら、発注者の所に行けとある屋敷を案内された。


 少し小高い丘の上にあるのは青い壁と白い屋根の建物。建築様式は蓬国のものとは異なり、どちらかといえばローブ王国に近かった。


 中庭にはバラやカミツレ、クレマチスが咲いていた。美嗣は幻想的な家に見惚れていると、庭で土いじりをしていた者に見付かる。


「何か用かな?」


 声を掛けてきたのはフードを目深に被った少年だった。使用人かと思い、主人への受取人サインを求める。少年はペンで紙にサインをして、美嗣に返そうとしたが、彼女の顔を見て驚く。


「君、見たことない顔をしているね」


 美嗣は自分に対して言ったのか分からず周囲を見回す。目の前の少年は、真っ直ぐ美嗣を見つめていた。


「私の事を言っているの?」

「うん、どの国の相貌にも当てはまらない。とても珍しいね」

「ええっ、私なんて平凡顔だよ!君の方がきれいな顔しているじゃん」


 少年の容姿は透き通る肌に雪のような白髪。左右で瞳の色が異なり、右顔に仮面をつけている。


「顔の美醜を言っているんじゃないよ。僕は色んな国を渡り歩いたけど、やはり何処の民族とも一致しないね」


 少年は美嗣の顎を触って、瞳の中をまじまじと見つめる。ナチュラルにガチ恋距離を詰められて、美嗣は息を止めてしまう。


「瞳の中に十字の光彩があるのがローブ人、光が当たると星が浮かぶのが蓬人、塵がばらまかれているのがバラル人、瞳孔が縦に長いのがスーガ人、銀の線が入っているのがスヴャーシ人……。

うん、やっぱりどれでもない」


 美嗣は10秒も息を止めている。間近で見る彼の赤と青の瞳には銀の線が入っていた。彼から少し離れて質問をしてみる。


「じゃあ、あなたはスヴァーシ人なの?」

「そうだね。君はどこの国の人?」

「ええっ~と、……」


 まさか瞳の特徴で異世界人だと勘ぐられるとは。この少年は何者?答えに詰まっていると、また地震が起きた。今回のは縦揺れが激しくよろけてしまう程だった。地面に手をつけて鎮まるを待つ。


「今日のは近いね。君は李州に住んでいるの?」

「ううん、拠点は桃州」

「そう。なら、早めに戻った方が良いかもね。また、ここに来ることがあったら、是非きみをスケッチさせて」


 少年は美嗣を立ち上がらせて、にこりと笑う。美嗣はメルヘンな屋敷を後にして、カイン達の所へ戻る。


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