第59話 いきなり、ラスボス!?


 金貨100枚貯まりました~!

 大変だった~。3ヶ月質素倹約して、パーティー用の貯蓄が満足いく金額になったので、カインから財布を返してもらえた。


 美嗣個人の貯金も貯まったので、早速買い物をしよう!李州へ向かい、前に立ち寄った宝飾店に入る。金緑石きんりょくせきの耳飾りを購入して、両耳に付ける。


「どうどう?」

「とっても綺麗ですね」

「えへへ!やっぱ李州といえば金緑石きんりょくせきを身に付けないとね~!」


 緑のピアスに満足した美嗣は次の目的地へ向かう。それは蓬国のダンジョン『地塊の庭』に挑戦すること。実はダンジョン周回もカインに禁止されていた美嗣。


 装備の獲得なんて大した金にならない趣味の範囲。この度解禁されて装備厳選ができるようになった。


 李州を更に北上して、川を渡り、山岳の入り口まで来た。『地塊の庭』に入り、玉塊ぎょくかいを倒す。レベル60、体力47500、攻撃力1150、防御力1280。


 美嗣が蓬国に来たときに最初に襲われた魔物。岩モチーフの魔物なので防御力は高く、シールド持ちなので削るのに時間がかかる。だが、丸まって体当たりしてきた時に盾で防ぐと逆にダメージを食らうのだ。


 盾キャラがいない場合は避けて、目を回している時に叩けば案外簡単に倒せる。美嗣はパーティーに盾キャラがいないので、回避しかできない。シールダーを仲間にしたいのだが、やっぱ推しパで組みたいから、不利な編成でも我慢する。


「神力を与えよう」

「みんなの神力を、あなたに!」

「風刃よ!切り裂け!」


 3体の玉塊を上手いこと誘導して、カインの奥義を当てることができた。計45200ダメージが入る。モンスターがいなくなり、宝箱を開ける。


 悠久の夢、不老の実、緑園の光が手に入った。外に出てステータスを確認すると、3つともオプションがいいものだった。


「おお!蓬国初ダンジョンでいいの出た~!」


 これも金緑石のお陰だと喜んだ瞬間、美嗣達の体は宙に浮く。けたたましい轟音と共に地面に叩き付けられ、上下に揺れる地面に耐える。今まで体感した中で一番大きな地震だった。数秒間揺れは続き、ようやく収まった。


「みんな大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「まだ少し揺れてるな」


 カインの察知通り揺れは止んでおらず、規則的なリズムを刻み、だんだんと近づいてきている。揺れる木々の間から現れたのは巨大な山羊であった。


 正確には体の下半分は山羊、尾は蛇、上半分は人の半身に右手に宝剣、左手にに錫杖しゃくじょうを持つ。顔は般若の面を付け、角と鬣が伸びている。ギリシャ神話のケンタウルスのようであるが、その妖魔の名は四凶の一柱・饕餮とうてつであった。


「とととっ、と、饕餮とうてつっ!?」


 おいおいおいおいおいっ!

 いきなりラスボスは洒落にならんてっ!プレイヤーの心折りに来とるんか!


 強大な妖魔に気圧され唖然とする美嗣達。李州に来た時の地響きは全て饕餮とうてつの仕業だったのだ。李州が最も警戒していた妖魔にばったり遭ってしまった。


「どうするんだ!ミツグ!」

「どうするってぇ、にぃげるんだよぉぉ!」


 パロでもギャグでもなくて、ガチだ!

 逃亡一択!こいつはダウンとる事も今のパーティーでは無理ゲー、いや死にゲーだもの!四人で全力疾走する。まだ饕餮とうてつはこちらに気付いていないので、距離を離していく。


 だが、饕餮の一本の腕が持っていた錫杖しゃくじょうが大地を叩いた。それは衝撃波となって地を伝い、美嗣達を直撃する。割れた地に埋もれ身動きが取れなくなった。


 地鳴りが一歩一歩と近付き、前肢に踏みつけられそうになった時、盾を持った兵士がシールドを張る。


堅牢堅固けんろうけんご!」


 岩のシールドが衝撃波を防ぎ、更に四人やって来て防護壁を作る。茶と緑の鎧は州師李軍の証。李州を護る兵士達だ。堅固な壁を作った後、一人の州師が檄を持って饕餮とうてつに斬りかかる。


「大樹は倒れぬ!」


 地面から樹木が生え、饕餮を怯ませ足止めする。その間に美嗣達は州師に支えられながら、撤退することができた。李軍の兵舎まで戻り傷の手当てをする。


「あなた達が北の秘境に向かったと聞いて、呼び戻しに参ったのです。饕餮とうてつに襲われる前で良かったです」


 美嗣達は李軍の人達に何度もお礼を言った。彼らが機転を利かせて様子を見に来てくれなければ、美嗣達はジ・エンドであった。『地塊の庭』の周辺は饕餮とうてつが彷徨いているため、もう行くことはできないだろう。


 手当てが済んで戻ろうとした時、アリアナが緑の石を拾う。


「ミツグさん、石が取れてしまっています!」

「ふぇ!うそぉ!」


 それは買ったばかりの金緑石の耳飾り。幸運のお守りが壊れた事で運気の暴落を実感し、愕然とする。


「おや、飾りが壊れてしまったのですか?」


 甲冑を着た武人が話し掛けてきた。灰色かかった茶髪と顎髭。青緑色の瞳。柔和な笑顔が人を朗らかな気持ちにさせる。


「連結の輪が外れてしまっただけでしょう。すぐに直せますよ」


 彼は兵士に工具を持ってこさせ、新しいリングで繋いで溶着した。彼は元通りになった耳飾りを美嗣へ返す。


「ありがとうございます!」

「いえ、金緑石は李王様を象徴する石ですから、きっとあなた達を護ってくれます。

"天は我らと共にあり"……」


 そう言って微笑む彼の右耳にも金緑石の耳飾りが揺れていた。州師に送られて美嗣達は李州を後にする。

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