レベル10

第64話 美麗ショタ天君


 1


 天女の解任を言い渡された桃王。茫然自失としている彼女に代わり、美嗣が反論した。


「待ってよ!それじゃあまりにも、ももちゃん、桃王天君が不憫だよ!」


 立ち上がって桃王の擁護をする。天依王巌てんいおうがんは透き通るような声で応える。


〔桃王を助けてくれた事には謝意を示す。だが、これは天人が遵守すべき律令。異邦人が口挟む事ではない〕

「でも、このままじゃ人との軋轢ができるだけだよ!今でも天人を信じている人達に応えてあげないと!」

〔天離の契は反故にせぬ。それは人々が選んだ道。その結果、国が滅ぶのならそれも必定〕


 この頑固者~!と声を荒らげたくなったが、王母の厳格さはゲーム内でも同じであった。


「なら、せめて試練を与えてよ!

どうすれば赦されるのか道を示して!そうじゃないと、四凶の脅威と戦っている州師や国民が持ちこたえられないよ!」


 王母の御前で堂々とした振る舞いをする美嗣に、桃王やカインは呆気にとられていた。緊迫した場面をレイは悠然とした目で見ていた。


〔良いであろう。ならば条件を出す。ぬしが我の『天子』となり、州師と共に『四凶』を討て。さすれば今一度、天意を臣民に示そう〕


 え?あっさり、話が進んでいるけど?あれ?

 美嗣は当惑する。主人公が食い下がる流れは合っている。でもその前に王母が主人公を試す流れがあるはずだった。


「本当に私に行かせるの?異邦人でただの冒険者の私に?」

〔二言はない〕


 えええええっ?マジで?

 王母ってそんな緩い感じの神様だっけ?私なら会って数秒の人に国の命運なんて任せないよ!


 更に混乱する美嗣。彼女が危惧していたのは、大任を課せられたからではなく、あるキャラクターが登場しなくなる事だ。そう、この天界で現れる『推し』がいるのだ。


〔もうひとつ、ぬし達には頼みたい事がある。李王、ここへ〕

「はっ……」


 李王!

 いま、『りおう』って言ったぁ!

 『栗王りつおう』じゃなくて『李王りおう』っ!


 美嗣達の傍に現れたのは齢十二ほどの少年。白と緑の礼装に腰布、黒い脚絆きゃはんの先に靴はなく裸足であった。風のように現れ、侍者のように膝をつく。


「五部衆が一座、李王りおう。ここに推参すいさんつかまつる」


 その相貌は幼さを残しているが、眉目秀麗であった。黒い髪に翡翠の瞳、片方の襟足を三つ編みにして左へ流している。顔を上げた時に右耳に付けた金緑石きんりょくせきの耳飾りが揺れる。


 かの尊号は『李王天君』。二千年以上生きる天人達の長兄。カイン、桃王に次いで美嗣の推しキャラであった。


「りっっっちゃっっんんだあぁぁぁぁ!」


 歓喜のあまり美嗣は李王に飛びかかる。彼はひらりとかわして泰然としていた。美嗣はそのまま地面へダイブした。


「騒がしい俗人であるな」


 美嗣は顔面殴打しながらも、顔を上げてその尊顔を目に焼き付ける。紛れもない李王天君!カインに会えた時と同じくらいの感情が込み上げる。


 ああぁぁぁぁ!

 美麗ショタ!美麗ショタぁ!かわいい!美しい!

 国宝級、いや、世界級の美少年。良かったぁぁぁ!ちゃんと会えたよぉ!


 推しに会えて感謝、感激、感情崩壊を起こしている美嗣を尻目に、李王は王母の元にひざまずく。


〔李王、『黒泥こくでい』は追えるか?〕

「逃げられましたが、術をかけた故、追跡は可能かと」

〔ならば、追って祓ってくるが良い。あれは放置できぬ〕


 おお!『黒泥を祓え』の任務か!ここで桃王・李王と協力して、天人との距離が縮まるんだよね~!お試しで天人パーティーをプレイできたんだったぁ!

 ゲームシナリオ通りの展開に美嗣は心踊らせたが、次の李王の言葉に気持ちは天界から真っ逆さまに落ちてしまう。



李王のイラスト

⬇⬇⬇

https://kakuyomu.jp/users/ki_kurage/news/16817330659517546983

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る