第63話 王母
仙水の泉は浸かると温かく、心地よい。
温泉ではないのに体の疲れが抜けていくようだった。包帯が巻かれた傷痕も水に染みて痛みをぶり返す事なく、じんわりとした拍動を感じる。美嗣は何とはなしに桃王のステータスを確認してみた。
……
桃王 レベル100
所属 五部衆
誕生日 3月3日
恩恵レベル 1凸
加護 木
……
武器 なし
礼装 なし
装備 なし
……
体力 28570
攻撃力 1750
防御力 657
神力 1028
加護力 68.2%
耐性力 32.5%
蓄積率 15.8%
練度 66.5%
運 12.2%
……
通常攻撃 レベル 10
スキル 天下無敵 レベル 10
奥義 力戦奮闘 レベル 10
……
おお~!すでにレベル100!
基礎攻撃力も高いし、武器と礼装合わせれば3000はいくな!桃王は攻撃がそのまま、バフの攻撃力に乗るため、とにかく攻撃力が上がる武器が最適!天舞の槍は最適武器であって、スキル回しも上げてくれる神武器だ!
「我の事をじっと見て、どうしたのだ?何か変な所でもあるのか?」
「ふぇ?いやいや!変な所なんてないよ!見てたら惚れ惚れしちゃうほどだよ!」
赤面しながら顔を逸らす美嗣。見目麗しい桃王に照れていると、桃王は美嗣を後ろから抱きしめ胸元に引き寄せる。
「気が一部に溜まるのは良くない。紅潮で頭部に溜まった気を逃がさないと……」
谷間に頭を埋め、桃王の
「みつぐに礼を言いそびれていた。我を助けてくれて感謝する」
「ううん、お礼なんていいよ。それよりも桃ちゃんは大丈夫?」
「わからぬ。頭に霧がかかっておるようだ」
桃王の顔色は晴れない。
護るべき国民に敵意を向けられたのだ。苦悩して当然だ。だが、下手な励ましや慰めはするべきじゃない。天人と俗人との緊迫は一言では形容できないのだ。
◼
朝陽が昇り、鳥達が鳴き始める。美嗣は何かに舐められている感覚で目を覚ます。瞼を開けるとそこには、巨大な鼻があり、鼻息がかかる。
「わあぁぁぁ!」
飛び起きて寝台から転げ落ちる。ゆっくり顔を上げると、寝台の向こう側に愛馬のリナがいた。向こうにはカインやアリアナ達が朝食の用意をしていた。
「起きたのか。食事ができている故、早く支度をするといい」
呼びに来たレイに促され衣服を整える。渡された皿には小籠包が三つ盛り付けてあり、果物もあった。久しぶりの食事に舌鼓を打ち、野菜と肉のハーモニーを堪能する。桃王も同じ食事を食べる。天人には栄養補給は必要ない。口寂しいなら果実を口にすればいい。
だが、食卓を囲むとは食事とは違う。同じものを食べ、語らい、和を作ることは団欒という一体感を生む。朝食を終えて食器を片付けていると、一人の子供が現れた。
「ご歓談の所、失礼いたします。桃王様」
恭しく頭を下げて現れたのは十歳くらいの少女。桃の花の髪飾りをして長い髪を後ろで纏めている。
「『王母』がお呼びです。天界へ
この国の神とも呼べる存在・王母からの呼び出し。何故か美嗣達も同行を許され、天界へ向かう。
天界へ向かうにはエレベーターを使う。
いや、搔い摘み過ぎた。さすがにそんな技術はこの世界にはないが、概ね合っている。飛天山の麓に洞窟があり、そこには『浮石』とよばれる浮遊する円盤がある。その上に乗れば上昇して、楽に登山することができる。
正確な標高は分からないが2000メートルはありそう。浮石をいくつも経由して、やっと最上階へこれた。
天界の景色を一目見れば、ここが天上だとすぐに分かる。草花は咲き誇り、木々には果実が実る。それは永久に枯れることも萎むこともない。高山だというのに冷気を感じず、蝶が羽ばたくほど陽気で心地よい。
桃王に付いていくと岩石が見えてきた。それは『
数千年前に降臨した王母は飛天山と天界を創り、そこへ意識を宿して蓬国を見守る磐石となった。この岩、いや山自体が『王母』の依代なのだ。
桃王が
〔桃王、我は再三申したはずだ。人々を助けてはならない〕
王母は険しい声で桃王を叱責する。桃王は畏縮したが、己の意志は伝えたかった。
「だけど、王母。妖魔に襲われる人々を、我は黙って見ていられない」
〔その結果、ぬしは民衆に捕らえられ、斬首されるところであったぞ〕
桃王は押し黙る。全てを周知している王母に何も言い返せない。気落ちする桃王に王母は更に下知を下す。
〔我の命に従えぬのなら、
『
…………………………………………………
レベル9、完。いつも読んでくださり、ありがとうございます。
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