第33話 1凸!
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美嗣達は彼らに挨拶して、カインの家へ向かう。叔父の家だった農園は街から離れた場所にあったため、火災からは逃れていた。廃村となった村には住み続けられないので、放棄したが時々帰ってきては埃を払っている。
誰も席に着かないテーブル、使われることのないキッチン、埃だらけの本棚。兄妹が使っていた子供部屋は、今のカインを受け入れないだろう。行方不明となった叔父のために花束をテーブルに置く。
手を組んで祈っていると、外からけたたましい鳴き声がした。カインと美嗣は顔を合わせて、外へ飛び出した。目視でも確認できる距離に竜が見え、美嗣は村にいた人達を心配する。
「カイン、行こう!」
「やるのか?」
「だって、みんなが危険だよ!助けないと!」
迷いのない美嗣の言葉にカインも討伐を決意する。だがこちらは二人だけで、戦えるのはカインのみ。シールダーもヒーラーもいないとなると、無茶な戦法は取れない。ならば、地形を生かして戦うのがベストだ。
ゲームあるあるだが、敵が絶対に登ってこられない場所から体力を削るとか、遠距離攻撃で安全地帯から倒すとかは、慣れたプレイヤーはよくやっていたりする。残念ながらカインは中距離攻撃だが、標的を分散して撹乱する作戦に出た。
美嗣が竜の注意を引き、カインのスキルを当てる。竜の体力を削りつつ、攻撃を受けないように妖翅を使って建物を飛び跳ねる。竜の体力を2万まで削ったが、美嗣が屋根の倒壊に巻き込まれ、瓦礫に足をとられてしまう。
「ミツグ!」
動けない美嗣に竜の鉤爪が襲いかかる。だが、飛来した矢が竜の弱点にクリティカルヒットした。ダウンした竜は地面に落ち、美嗣とカインは畳み掛ける。美嗣のスキルと奥義を同時に発動、神力の合計は低いが、カインの奥義で計15000のダメージが入った。削りきれなかった体力は通常攻撃で絶命に追い込む。
「いったい、誰が?」
竜が死んだのを確認して、美嗣は周囲を見回す。竜の頭部に矢を射った人物を探したが、人気は全くなかった。誰が助太刀してくれたのか分からないが、かなり腕のいい射手だろう。でなければ、飛んで動き回る竜の弱点をピンポイントで狙えない。
「見つかって、ない?」
「大丈夫だ。すぐ隠れたからな」
少女はふぅと息を吐き、地面に沈んでいく。20メートル後方から一射だけ助力したが、あちらはこちらに気づいてはいない。自分達がここにいる事は村の者に気付かれたくないし、ましてや『カイン』には絶対に見つかってはいけない。
彼は被っていたフードを目深に被り直し、脱力しているボブヘアーの少女を連れてその場を離れた。
◼
竜の後始末は後で騎士団に報告することにして、本来の目的である墓参りに来た。家の先にある森に行き墓石の前に立つ。そこには青い薔薇が供えてあった。美嗣は疑問に思ったが、カインは村にいる人が墓石を見て供えてくれたんだろうと答えた。
カインは重ねるように薔薇を置いて、手を合わせて祈りを捧げる。美嗣も膝を折り、手を合わせた。十数秒間、冥福を祈る。目を開けた美嗣はカインの体がほんのり光るのを見た。気になって閲覧でステータスを確認すると、カインの1凸が解放されていた。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁっっっ!」
美嗣の悲鳴にカインは驚き振り返ると、彼女は腰を抜かして仰天の顔をしていた。
「とっ、ととととととっ凸っ!凸ってる!1凸してる!」
「はぁっ?なに、とつ?」
美嗣は恩恵レベルをタップして効果を確認する。
……
1凸 スキルの回数+1。連続してスキルを当てると1毎に攻撃力+10%。
……
スキルの回数が増えて、更に攻撃力最大+30%!強い!まさか、ガチャが出来ないこの世界で、凸できる条件が判明するなんて!
凸とは同じキャラクターを合成させることで強い効果を得られる廃課金者向けのシステムだ。もちろん、ゲーム内でのカインは完凸しており6体引いている。そのせいで給料が吹っ飛んでしまったが、後悔はしていない。
やれる!
レベル上げ以外にカインを強化できるなら、もっと強くできる!美嗣は新たな希望を見出だした。
……………………………………………………
レベル5、完。よろしければ、♥、☆やフォローをいただけると大変喜びます。よろしくお願いします!
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