第10話 ローブ王国
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美嗣とカインは森を抜けて平野を歩いていた。殺風景な畷道から木で組まれた柵が立ち始め、左右にブドウ畑が見えてきた。ローブはワインとチーズが名産の国で領土の6割は畑と牧場であった。石積された街道に出ると、何台か馬車が通り過ぎ仕事をする人影がちらほら見えてきた。
丘の先に尖塔が生えてきたので、美嗣は丘の上へと走り出した。眼前に広がるのは城壁と青い屋根、白を基調とした街並みと奥には王宮であるシャルル城が見える。ゲーム内で何度も探索した場所である。
巨大な城門をくぐるとサン・ミカ街が広がる。中央広間まで続く大通りと建ち並ぶ商店、テラスや店先に草花が咲き誇り、シンプルな石積の街を彩る。宝石店や花屋やパン屋に心踊らせ、噴水のある広場で写真撮影をした。ちょうどカインが映り込んだので、そのまま撮影会を行った。
推しとの写真撮影!等身大パネルならあるけど、生推しとなんて!我が生涯に一片の悔いなし!
観光を終えて先ず向かうのは『冒険者協会』である。各国に拠点を置く冒険者のための組合で、ランクに応じて振り分けられる仕事も報酬も違ってくる。魔族が猛威を振るう今日において、人手不足の騎士団よりも冒険者の方がフットワークが軽く手練れも多いため、魔物によるトラブルは冒険者協会の方に集まりやすかった。
登録に必要な書類を書き終えて、証明章である鉛のペンダントを貰う。入会したての新人が貰うランクは『D』ランク。そこから5段階のランクが存在し、ランクに応じて身に付けるペンダントの金属が違ってくる。Dランクから
ついでにパーティー申請もしておいた。メンバーはカインと美嗣の二人だけだが、あとで仲間を増やしていくので中規模パーティーの申請をしておいた。パーティー名は『スタン(stan)』とした。意味は推し活。ストーカー(stalker)とファン(fan)を合わせた造語で熱狂的なファンの事を指す言葉だ。
必要な申請をすべて終えると受付の者から住居の説明が入る。冒険者協会は住まいの提供もしてくれている。流浪人や根なし草の者にはありがたい制度だが、ここでもランクに見合ったハウスが用意される。
美嗣も下層ハウスでよいと答えた。パーティーを組んでいる場合はメンバーの合算でハウスランクを決められるのだが、家賃は報酬金から引かれるので安いに越したことはない。
冒険者協会の裏手にある建物が下層ハウスになっており、ドアを開けると数人の男が酒を飲んでいた。1階は共有スペースになっており、テーブルと椅子が数セットあり奥には調理場がある。2階は一人用の居住階で、3・4階は複数人用の部屋になっている。
シャワーは部屋ごとについているが、トイレは共同であった。カインは取り敢えず自分が使っている部屋に美嗣を招いた。複数人用の部屋の手配ができるまでの処置であった。
部屋にはベッドと机と椅子、籠に数枚の服が入れてある程度で他には何もなかった。部屋の鍵はあるが、貴重品は置かない方がいいと言われた。カインは美嗣にベッドを譲ったが、美嗣は断固拒否した。
推しが使っていたベッドで寝たらそのまま昇天してしまう。その日は布団と枕を借りて床で寝た。異世界に来てまだ2日目だが不安は全くなかった。明日からの計画を練りながら眠りにつく。翌朝、カインより先に起きてばっちり寝顔を撮っておいた。
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