外伝

第47話 青花祭


 青い薔薇が町中に飾られている。

 今日は『青花フルールブル祭』の初日である。

 ローブ王国の国花である青い薔薇で国を彩り、聖母アニエルの生誕を祝う祭り。近年では大きな祭りは自粛傾向にあったのだが、竜王を討伐した今年は盛大に執り行う事にした。


 祭りの準備期間からうきうきしていた美嗣は、開催日である今日は朝早く起きて出掛ける準備をしていた。用事があるカインと別行動となったが、アリアナ・レイを連れて、開会式があるアニエル大聖堂へ向かう。


 閉鎖となっていたアニエル大聖堂だが、今日に向けて再開の準備を整えていた。新しい神父とシスター長が選出され、開催の挨拶の時に紹介された。新しい神父はアリアナがいた孤児院を経営していた人物で、人柄は良く功績もしっかりとした者だった。神父の挨拶に拍手を送り、祭りの開催を見届けた。


「ミツグさん、どうぞ。神の祝福を!」


 アリアナが美嗣に渡したのは青い薔薇の造花である。リボンとピンがついた手作りの花は一番大切な人に贈る習わしであった。


「わぁ、ありがとう!確か女性は髪に付けるんだよね」


 美嗣はもらった薔薇を付けようとした。ウツギの花飾りを外し、リボンで髪に結びつけようとする。手こずっているとアリアナが綺麗に結んでくれる。


「どう?」

「お似合いです」

「あっ、私もアリアナにあげるよ」

「いいですよ!私ではなく、一番大切な人に贈ってください」


 美嗣は「そう」と言って花を下げる。美嗣にとってはアリアナだって大切な人だし、あげても問題なかったのだが。気を取り直して早速屋台を回ろうとしたが、レイの姿が見当たらない。


 大聖堂のアニエル像側にいるレイを見つけたので、連れて町へ向かう。その後、聖母アニエル像のローブの隙間から出ている髪に、青い薔薇が結ばれている事にシスターが気づくのは、夕方過ぎの事である。



 ノド村に来たカインは数日の変化に驚いていた。少しずつ進んでいた解体作業が一気に進み、新しい家が建設中だった。王政が村の復興を押し進めたおかげで、近い内に移住も叶いそうだった。カインもここを離れる前に農場の譲り手を探しており、何人か候補を見つけていた。


 弟の墓に花を供えて王都へ戻ろうと思い、その場所へ向かう。墓石の前に青い薔薇を置いて祈っていると、足音が聞こえた。カインはそれが誰かを確認するまでもなく、わかっていた。


「その花はもう、弟にあげなくていいぜ」


 カインは後ろから近付いてきた人物に話しかける。ガエルは手元にある青い薔薇を見て、カインの側まで歩く。


「気付いていたのか」

「3年目くらいからかな。毎年命日に花束を供えていたのも、あんたなんだろ?」

「ああ……」


 カインは3年前に偶然ガエルの姿を目撃していた。その時は問い詰めるつもりもなく、弟・アベルの墓に花を手向けるガエルの姿を隠れて見ていた。


「あんたは騎士の誇りと忠誠を取り戻してくれた。俺にとっても弟にとっても英雄だ。だから、俺達の事はもういいんだよ」


 過去への懺悔を清算してよいと告げるカイン。ガエルは少し寂しそうな顔をして、静かに頷いた。



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