第48話 神の祝福を
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カインが戻ってくるまでの間、美嗣達は正門の近くの屋台で待つことにした。屋台には射的があり、矢で的を狙える遊びがあった。面白半分で挑んでみたら、美嗣は弓の才能があったようで10射全部中心円に当てられた。
「ミツグさん、すごいです!」
「ふふっ~ん!私シューティングゲームも得意だったからね!どんなもんだい!」
学生時代はFPSのバトロアにハマっていた美嗣は、夏休みに上位ランク目指して没頭していたら、母親にめっちゃ叱られた経験がある。とはいえその時の経験が活き、レーザーポイントがなくとも五メートルの距離を正確に射抜くことは朝飯前だ。
「すごいな、嬢ちゃん!これなら去年の最高記録を越せるんじゃないか?」
「へぇ!最高何本?」
「12射連続だったぜ!後2本で記録に並ぶぜ!」
「まっ!よっし!やるぞ~!」
美嗣は闘志が湧いてきて、記録更新を狙っていたが、隣に『前回の』最高記録保持者が現れた。
「おお!アーシェ来たのか!」
「ふぇ?アーシェちゃん!」
アーシェは無言でお金を置き、弓と矢を借りて美嗣と対面する。
「勝負」
いつものほわっとした顔はなく、真剣な顔付き。美嗣は申し出を受け、弓道対決に挑む。結果は美嗣18本、アーシェ21本でアーシェの勝利だった。お店の景品を貰ってアリアナ達の所に戻ると、いつの間にかカインが戻って来ていた。
全員が揃ったので街中を廻る。リンゴパイに串焼き、特盛パンケーキなど美食を堪能していると、向こうから音楽が聞こえてきた。
「見て見て!パレードが始まったよ!」
青花祭の目玉である花山車が街中を通る。色とりどりの花で飾られた山車から、女性が花を投げている。キャッチした花でその年の運勢を占ったりするのだ。美嗣は黄色いミモザの花をキャッチすると、青い薔薇の事を思い出した。
「そうだ、カイン!これを贈るよ!神の祝福を!」
美嗣はポーチに仕舞っていた薔薇をカインに渡した。
「花を貰ったのは久しぶりだな」
「そうなの?エメから貰ったりしていないの?」
「俺もエメも亡くなった家族にあげていたからな…」
「そっか…。私もさっきアリアナから花を貰ったけど、誰かから祝福されるのは嬉しい事だからね」
美嗣は青い薔薇を触りながら笑顔を見せる。アリアナに声を掛けられたので、カインはお礼を言いそびれてしまう。ガエルに言ったように、亡くなった者への懺悔はこれで最後にしようと思った。
カインは薔薇を手首に巻いて、美嗣達と一緒に賑やかな群衆へと紛れていった。
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クロエは団長室で机に花を置いたり、戻したりを繰り返していた。今年こそは手渡してするべきか、黙って置いておくべきか。せめて置き手紙をした方が良いかと思考が堂々巡りする。
「渡さないの?」
「きゃあ!お、驚かせないで!」
音もなく近付いたアーシェに心臓が跳ね上がるクロエ。休憩から戻ったようで見廻りの順路を聞いてきた。
「ガエル、薔薇」
「渡すけど、やはり置いておく事にするよ」
祝福の薔薇は大切な人へ贈るのが習わしだが、贈られた相手は何かしらのお返しをするのが暗黙の了解だった。クロエは薔薇を渡すことでガエルの負担になってしまうと考え、名無しのまま薔薇を贈っていた。
クロエはアーシェを見送り花を置こうとした時、ガエルが部屋に入ってきた。
「だだだっ、団長!今日は非番のはずでは!」
「用があったので立ち寄った」
驚きのあまり思わず薔薇を隠してしまうクロエの前に、青い薔薇が現れた。
「これを君に…」
「……アベルに贈らなくてよいのですか?」
「カインにもう良いと言われた。だから、君に贈る」
ノド村でカインに諭された後、贈る相手のいなくなった薔薇を見て、ガエルは真っ先にクロエの事が頭に浮かんだ。
「君がいなかったら、俺はここまでこられなかった。感謝を込めて。神の祝福を…」
「わ、私も、団長に…」
薔薇を受け取ったクロエは後ろに隠していた薔薇をガエルに渡す。
「やはり、毎年薔薇を置いていたのは君だったか」
「気付いていたんですか?」
「ああ、だが自惚れだと思われたくなくて、訊ねなかった」
「そうですか……」
顔を赤らめて俯くクロエをガエルは食事に誘う。青い薔薇を付けた二人は讃歌を謳う花の都へ向かった。
ローブ王国編・完
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