第43話 誓いをここに


「王政から正式にゴルドバベラム討伐の命が下った。俺達は3日後にグニタヘイズの砦へ向かう」

「……それを俺達に伝えてどうするんだ」

「君達にも討伐に参加してもらいたい」

「なぜ?」


 ガエルは一呼吸置いた。美嗣も立ち上がって真面目モードになる。


「君には決着をつけてもらいたい。竜に全てを奪われた君に、あの竜王を討って欲しいんだ」

「今さら遅すぎるだろ。もっと早く騎士団が動いていれば、……エメは死んでいなかった」


 カインは写真に目を落とす。ガエルは言い訳も反論もせずに黙っていた。もちろん、ガエルはエメを止めていた。もう少しだけ待って欲しいと。だが、彼女の忍耐も限界だったのだ。その気持ちは痛いほど分かっているから、強くは言えなかった。


「……あんたはどうして、『騎士』に拘っているんだ」


 カインは問いかける。ガエルは肩書きに執着する人物でないし、実力もあるのに騎士に留まるのは、理由があると思った。


「エメは言っていたよ。騎士団も王政も信じなくていい。だが、あんたの事だけは信じてやって欲しいと……」


 エメは元騎士だからガエルを擁護している訳ではなかった。彼の人柄や理念を知っているからこそ、そう言えるのだ。ガエルは騎士デュラン像を見上げる。


「馬鹿げた理想だと笑うかもしれないが、俺は……騎士デュランの伝説が何よりも好きだったんだ」


 子供の頃からデュランの伝承や童話を読んでは強い憧れを持っていた。

 聖母アニエルから最初に神力を賜った騎士。

 救国の英雄。

 聖光騎士のはじまり。

 そんなヒーロー思想をずっと抱いていた。現実を知り、騎士団の堕落や弱体を目の当たりにしても、彼は理想を捨てられなかった。魔族が復活し、国が窮地に追い込まれている今だからこそ、騎士デュランのような忠道を取り戻したかったのだ。

 騎士デュラン像を見上げているガエルの姿にカインは亡き弟を思い出した。


「昔、同じような事を言っていたやつがいたな」

「君の弟か……?」

「覚えていたのか」

「忘れた事など1度もない。あの時の君の言葉も、ずっと胸に残っている」


 ガエルの眼は澄んでいて濁りがない。カインは剣を抜いた。ガエルに向けるためではなく、『誓い』するためだ。カインは背筋を真っ直ぐ整え、剣を両手に持って胸の前に掲げ、踵をくっつけた。


「今、ここで、誓ってくれるか。ガエル」


 ガエルは大剣を両手に持ち、胸の前に掲げ、踵をくっつけて真っ直ぐカインを見た。


「誓いをここに。

我が肉体は不屈なり。我が魂は不滅なり。神の祝福を受け国家と良民を護るため、

…………、

騎士デュランでも聖母アニエルでもなく、

竜の犠牲になった全ての者と、

君に……、忠道を示す」


 カインの胸は熱くなる。目尻から涙が零れそうになったが、俯いて誤魔化した。


「……最後のは、余計だ」


 剣を納め涙を拭うカインを見て、美嗣も感動で泣き出していた。このシーンはゲーム画面で見ていてもボロ泣きした。何度見ても名シーンだわ!カインと騎士団が和解した事でいよいよラストバトルに挑む事になる。その前に準備する事が山ほどあった。


「みんな、ちょっといい。そんな装備で大丈夫か?」


 美嗣の言葉にみんなが彼女に注目する。美嗣は鞄の中に圧縮していた装備を袋ごと取り出す。この1年で厳選した装備達だ。


「ゴルドバベラム討伐に向けて、騎士団も数値を整えるべきだと思うんだ!

とういわけで騎士の皆さん!服を脱いでくれます?」


 うきうきで仕切る美嗣に、カインの涙は引っ込んだが、頭痛がしてきた。後は美嗣が暴走しないように押さえる事に集中する。


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