第42話 和解

 日が傾く少し前に客人が来た。黒髪カチューシャが特徴のアーシェがドアの前にポツンと立っていた。


「これ、返す」


 アーシェが渡してきたのは写真機だった。美嗣は彼女が拾ってくれたと思ったが、アーシェは自身が盗んだ事を暴露。困惑する美嗣に説明はなく、もう一つ物を渡してきた。


「フィルム……?」

「中身、現像、替え、購入」


 『中身を現像したから、替えのフィルムを購入した』を単語のみで伝えてきた。アーシェの片言キャラにきゅんきゅんしていたら、美嗣はやばい現状に気付くのが遅れた。フィルムを現像したという事は今までの撮った写真がすべて写真になったという事だ。そう、美嗣が今まで撮影した写真がだ。


 ん、んん、んんん?

 …………やっっ、やべぇぇぇぇぇっっ!

 盗撮写真が騎士団に見られたぁぁぁ!どどどどどっっどうしよう!カインの寝顔とかアリアなの際どい写真とか全部現像されちまったぁぁぁ!

 動揺で冷や汗が流れ、体温が一気に下がる。美嗣はアーシェの両肩を掴み、写真の所在を訊ねる。


「げ、げげげ、現像した写真はどこにぃ!」

「ガエル、所持」


 お、終わった……。私の異世界生活、終了です。本日午後6時、冒険者ミツグは盗撮の容疑で騎士団に身柄を確保されました。司法に引き渡し厳正な処罰が下される事が決定。ここからは監獄生活が始まります。ありがとうございました……。


 膝から崩れ落ち絶望する美嗣。アーシェは美嗣達に騎士団本部へ来てくれるように言い、四人で部屋を出る。騎士団へ向かう途中、美嗣はずっと『泣き落とし、謝罪、軽罰』などとぶつぶつ呟いていた。



 王都の西側に居を構える騎士団本部には、3階建ての建物と宿舎と広い訓練所がある。建物の中に入ると広間の中心には騎士デュランの石像が設置されている。アーシェはガエルを呼びに行き、クロエも同伴させたガエルが2階から下りてきた。ガエルが階段を下りきったと同時に、美嗣は彼の足元へスライディングして泣き出した。


「ガエル団長!どうかお慈悲をぉ!ほんの出来心だったんですぅ!誰かに見せたり、脅したり、お金を稼ぐつもりは微塵もありません!ほんとうっでぇしゅぅぅ!」


 ガエルの前に跪き懺悔する美嗣。ガエルは困惑した顔で下知を下す。


「君を咎めるつもりも司法に突き出すつもりもない。まぁ、正直よろしくない物はあったが、今後は良識ある範囲で撮影してくれ」


 神~!ガエル神対応だわ!美嗣は裁かれる恐れがなくなり、嬉し泣きをする。

 ガエルが写真を返そうとしたが、カインがそれを奪い取る。焦って取り返そうとする美嗣を避けて写真を確認すると、カインの寝顔やらアリアナの着替えやらの場面が写っていた。


「てめぇ、盗撮してやがったな!」

「……うう、それは……その~」

「少しは見直していたのに、見損なった!後で処分するからな!」

「えええっ!お願いします!寝顔のだけは捨てないで下さい!」

「だまれ!」


 泣きわめく美嗣に怒鳴るカイン。とても穏やかじゃない空気だが、端から見ているとコントのようにも見える。意気消沈した美嗣にガエルは最後の1枚を返す。


「これも返しておこう」

「まだあんのか!」


 ガエルが出してきた写真をカインは受け取り、確認する。それは盗撮ではなかったが、カインともう一人の人物が写っていた。


「できれば、それは譲ってくれるとありがたい」


 カインに腕を回し、ジョッキを持って笑っているエメがそこにいた。カインは冷静さを取り戻し、騎士団が自分達をここに呼んだ理由を訊いた。

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