第39話 レイちゃんはそのままで……

 

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 ローブ国内ではある噂が広まっていた。


 『竜の軍勢が近い内に攻めてきて国を襲う。だが、その時王政は騎士を王都の護りに置き、自分達だけ助かるつもりだろうと……』


 孵化寸前の竜の卵が大量にあったことは、2か月前の冒険者達の証言があるため、吹聴ではない事が明らかだった。この国はいつ滅ぶか分からない。


 王や貴族達の意向が本当なら、王都以外の村や街はどうやって防衛すれば良いのか。人々の中にずっと渦巻いていた不満と不安が波及していく。


『王政はなぜ、騎士にゴルドバベラムを討たせないのか?』

『竜が来た時、国は本当に自分達を見棄てるつもりなのか?』

『今のままでは、国と共に滅びることになる』


 各地の村主や領主達は住民の意見をまとめた訴状を王都へ送った。今、この国では王政への不信と改革を求められていた。



「うーん……」


 美嗣はレイのステータスを見ながら唸っていた。

……

【レイ】 レベル100

所属 なし

誕生日 12月25日

恩恵レベル ◼◼◼

加護 ◼◼◼

……

武器  なし

礼装  なし

装備  純白な想い 柳の枝 原初の輪

……

体力  58257

攻撃力 12258

防御力 9684

神力  534210

加護力 128.1%

耐性力 95.4%

蓄積率 189%

練度  128.6%

運   56.5%

……

通常攻撃 レベル1

スキル  慈仁の愛 レベル1

奥義   ◼◼◼ レベル◼

……

 レイちゃんの凸はどう進めればいいんだろう?そもそも非表示になっているし、どこの国出身だ?奥義が使えない事も合わせて、何かしら秘密があるのか。


 美嗣はレイの強化に頭を抱える。

 そもそもレイをアタッカーに出来ないかとも検討していた。攻撃力が12258もあるのだ。倍率が1.5でも一発18387もダメージが出る。タメ攻撃なら倍率2.5で30645も出せる!


「レ、レイちゃんは剣とか弓とか扱えたりする?」


 レイは眺めていた空から視線を美嗣に移した。美嗣の質問からその魂胆を見透かした。


「妾を戦わせたいのか?」


 落ち着いた口調だが、不信が籠っているように感じる。美嗣は自分の思惑を言えずに黙っていると、レイは窓辺から離れ美嗣の膝の上に座った。


「妾は戦いを好まぬ。だが、人には戦う力が必要だ。人を守るため国を護るため、威信をかけ命をかけ、戦う事は必定であった」


 レイは膝を抱え、美嗣の体に寄りかかる。間近で見る彼女の目は少し光彩がくすんでいるようであった。


「戦う事、他者の命を奪うことは必定であったが、それが正しい道であったかは妾には判らぬ。一方の正義は一方の悪であり、妾にはどちらに付くこともできない」

「つまり、レイちゃんは……戦いたくないの?」

「そなたが命じるのなら、戦っても良い。それが天運ならば従おう」


 美嗣はレイを抱きしめて、しばらく考えた。彼女の言葉を考えたが、真意は分からない。だが、彼女が望まない事は強要したくなかった。


「なら、いいや!レイちゃんが戦いたくないなら、戦わせたくない!」

「……そうか」


 美嗣はレイの頭に頬ずりをする。ラベンダーのような香りのする髪を嗅いでいると、レイの尖った耳を舐めたくなった。衝動のまま小さな耳にかぶり付くと、レイは思わず声を出す。


「うんっ……何をするのだ、馬鹿者めっ」


 耳を噛まれて目くじらを立てるレイ。

 叱責しているが、子供に注意するくらいの柔らかい口調であった。美嗣はレイに怒られた事に興奮して、もっと強い口調で叱るようにお願いした。


「何をするのだ!馬鹿者が」

「もっと、罵るように!踏みつけてくれてもいいので!」


 美嗣はベッドから下りてレイの足下へ跪き、餌を待つ犬のように息を荒げる。レイは期待している従僕の望みに答えて、素足を美嗣の頬に当てる。


「無礼な従者であるな。恥を知れ!」


 おふっ!主従プレイありがとうございます!料金いくらですか?この羽虫を見るような目付き!たまらん!写真撮っとかねば!美嗣は後ろに手を回して写真機を取ろうとしたが、探る手はそれを見つけられなかった。


「あれ?んん?あれっ?」

「どうしたのだ?」


 美嗣は腰に付けているバッグを手前に持ってきて、鞄の中を探ったがどこにもない。


「あれれ?写真機がない!うそ!なんで!」


 鞄をひっくり返し、中身を全部出したが、影も形もなかった。

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