第36話 私が守るよ
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カインと美嗣は屋根の上に登り、朽ちた板を剥がして、木で穴を補修していた。これで雨漏りは少し改善されるだろう。教会に身を置いてから1週間が経った。昼間は依頼を片付け、夜は証拠を集めていた。写真機のフィルムを使いきったら現像して、その写真を騎士団に渡す予定である。
一段落着いてお昼を食べに行こうとしたら、グザヴィエに呼び止められた。大聖堂の執務室に入ってソファに座ると、彼は一つの提案をしてきた。
「アリアナに一つお願いがあるんだ。聖光の泉は知っているな?」
「はい、もちろんです」
聖光の泉とは聖母アニエルが湯浴みをしていたと伝えられている場所で、財政難の教会が絶対に手放さなかった聖地である。
「そこで清廉の儀を行って欲しいのだ」
「それは、熟練のシスターの役目です。私には不相応です」
「いやいや、君のように純真な信奉者にこそ儀式を行って欲しいだよ」
「でも……、あそこは、ギレム卿の領地じゃ……」
アリアナは俯き、両手で体を抱えた。過去の凌辱を思い出し、体が拒絶する。ギレム卿は貴族で、聖光の泉を含めた土地の領主でもある。教会の聖地を牛耳っているため、神父達は彼らに逆らえず、淫行が根付いてしまったのもギレム卿が先導したせいであった。
彼はアリアナの事を気に入っていて、貞操を奪われそうになって殴ってしまった相手でもある。怯えるアリアナの手を繋ぎ、美嗣は神父に向き合う。
「いいですよー!私達も付いていっていいですよね?パーティーなんで!」
「あっ、ああ、もちろん!是非来てください」
神父・グザヴィエの顔は引き攣っていたが、美嗣は無視した。アリアナは美嗣の手を強く握っている。
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国の南西部一帯がギレム卿の領地で、牛と乳製品が主な産業である。領主がクソでもここで作られた弾力のあるチーズは絶品で、国外にも販売している程であった。館に到着するとちび、ハゲ、デブの3拍子揃ったギレム卿が出迎えてくれた。
「ようこそ、神父・グザヴィエ。そして、アリアナも久しぶりだな。元気だったか?」
「……」
「どうした?挨拶くらいせぬか。わしとお前は浅からぬ仲なのだぞ。積もる話もあるのだ。わしの部屋に来ないか?」
ギレム卿はアリアナの巨乳を見ながら迫ってくるが、美嗣が間に入って威嚇する。
「すみません!アリアナは大事な儀式の大役を任された事で、緊張しちゃってて!お話なら私が引き受けます」
「ああ、そうか。よろしく頼むよ」
誰がよろしくするかバーカ!美嗣は挨拶もそこそこに客室へ案内するように促す。話をしている間、アリアナはずっと下を向いたまま、美嗣の後ろに隠れていた。
聖光の泉に入る前に身体を清めるために、屋敷で入浴をする。美嗣は一緒に入ってアリアナの体を洗ってあげる。彼女の綺麗な金髪をオリーブのシャンプーで洗い、背中や腕も洗っていく。いつものように胸を揉みながら洗っているのに、アリアナの反応は薄かった。お湯で流してタオルで拭いている時に、アリアナが我慢できなくなって、本音を漏らす。
「ミツグさん、……やっぱり、私、行きたくないです」
アリアナは体を丸くして肩を震わす。ギレム卿に触られた感触や嫌悪感が蘇り、萎縮する。
「ごめんなさい……、でも嫌なんです。あの人達、何かしてきます。怖いんです……」
確かに神父とギレム卿が何かしてきても、不思議ではない。美嗣もそれを承知でグザヴィエの提案に乗ったし、チャンスだと思ったのだ。美嗣は後ろからアリアナを抱きしめ、優しく包む。
「大丈夫……、私達がついてるから!アリアナの事を守るよ」
アリアナの震えは止まった。しばらく美嗣の温もりを感じて、心を落ち着かせていた。
午後6時になり、美嗣達はアリアナと共に聖光の泉がある森の手前まで同行する。道の途中でアリアナを見送り、姿が見えなくなったら作戦を開始する。
「よし、カイン!覗きに行こう!」
「……はっ?」
「あっ、間違えた!見守りに行こう!」
「お前、絶対最初のが本心だろ」
「ちっ、ちがっうもーん!」
美嗣は目を逸らして誤魔化す。男のカインは入れないから、美嗣が後を追い二人は入り口を見張っていた。
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