第24話 推しに熱愛報道!?

 もう一件の依頼も片付けた美嗣達。対した被弾もなく、改めてシールダーの偉大さを噛み締めた。


「やったな、カイン!」


 エメが手を翳すとカインも手を上げてハイタッチした。二人の連携も息の合ったもので、互いのスキルの持続時間や奥義の特性を熟知しているようだった。話を聞くと、カインが冒険者になったばかりの頃からの付き合いで、もう5年になるという。カインもエメの前だと柔らかい表情をしており、気を許しているのが感じ取れる。

美嗣は前を談笑しながら歩く二人を見て、女の勘が働く。


 ……まさか、こいつら!デキてる?

 その考えが過った時、美嗣の全身に虫が這うような悪寒が走る。推しに女の影があるというスキャンダルに世界が揺れるほどの目眩を感じる。ひどい吐き気に耐えきれなくて、二人に事実確認をしてしまう。


「あ、ああああのさ、ふふふっ二人って、つつつ付き合ってたりするの?」


 美嗣の質問にカインはすぐに否定しようとしたが、エメはちょっとからかってやろうと思い、カインに腕を回して引き寄せた。


「だったら、どうする?」


 エメの冗談に美嗣は数秒呼吸が止まる。石化されたように動かなくなったかと思えば、突然穴という穴から血を吹き出て、地面に沈んでしまう。


「おい!ミツグ!」

「どうしたんだい?大丈夫か!」


 ぐぅはぁぁぁっっ!ああっ!ぐうううっっ!

 ダメージがぁでかい!体力が残り1だわ!

 推しに恋人がいるという爆弾が投下され、目や鼻や口から流血する美嗣。確かに推し活とは修羅の道だ。それが2次元だろうが、2.5次元だろうが、推し活とは永遠の片想いといえる。


 アイドルに熱をあげている人は、推しの熱愛や結婚に絶望し、推し活を辞めてしまう事もある。アニメやゲームなら生々しい話は皆無だが、ストーリー上キャラと結ばれる事もある。それが推しの幸せなら祝福すべきだろう。美嗣は辛酸を飲み込み、ゾンビのように体を起こし、顔を上げて渾身の祝辞を述べる。


「おっおおお、お似合いだと、おお思うよ。ナ、イスカッ、ぐっ、カップル~!」


 目を血走らせ、歯をギリギリさせ、般若の形相をする美嗣。カインもエメも美嗣の威圧に言葉を失い、固まってしまう。美嗣はフラフラと歩き出し、王都の方へ消えていった。



「マスタぁー、もう一杯ぃぃ~」


 美嗣はやけ酒をしていた。普段はお酒を嗜まないし、二十歳の時に忘年会で飲んだ程度だ。だが、飲まずにはやっていられない。適当にワインとかビールとかの安い酒を飲んで泣きじゃくる。心配した店主が止めてきたが、無視して飲み続けた。一時間ほどで酔い潰れて、カウンターで寝てしまう。


「お客さん、そろそろ帰りなよ。家族が心配するよ」

「う~ん、きゃぞくなんて、いないもん~。だぁれもしんぱいしない~」

「だとしても、女が一人で酒場にいるのは良くないぜ。誰かに連れ拐われてても文句はいえないよ」

「もじょだからいいもん。一生どくしんだもん。わたしなんて、誰もおそわないよぉー」

 手のつけられない酔っぱらいに店主が困り果てていると、店内に迎えが現れた。

「こんな所にいたのか。いつものルートにいないから探した」


 来てくれたのはカインだった。カインは代金を払って美嗣を連れて帰った。腕を回して覚束ない足取りの美嗣を支え、何とか歩いていく。帰路の道中でも美嗣はカインの事を想い、泣いていた。


「ううっ~、カインがぁ~、私のカインがぁぁ~」

「誰がお前のだ」

「だってぇ!こんなに好きで貢いだのにぃ!恋人いるなんてぇ~、ひどいよぉ!裏切りだよぉ!」

「はっ、好き?俺の事が?」


 カインは足を止めた。美嗣に視線を落として、彼女の告白を聞く。


「そうだよ~。一目見たから好きだったもん!見た目はどストライクだし、優しいし、強いし。独りでも頑張って生きてて、スゴいなって思ったんだよ!」


 突然の求愛に戸惑うカインだったが、美嗣が盛大に吐いた事で、動揺は引っ込んでしまう。カインは深いため息をついて彼女の介抱をする。


 次の日、ひどい二日酔いで目覚めた美嗣。レイに看病されながら小言をいわれる。アリアナの熱は下がり動けるようになったので、今日は美嗣が留守番となった。頭痛が収まった昼過ぎくらいに、テーブルの上にあったパンとジュースを腹に納めた。お詫びに夕飯は豪勢な物を作ろうと下へ降りると、エメと鉢合わせした。


「ミツグ、大丈夫か?昨夜は大変だったって聞いたよ」

「えっ、……ああ、大丈夫です」


 俯き目を逸らしてしまうが、エメは美嗣の目が腫れているのを見逃さなかった。


「昨日はふざけて悪かったね。カインと付き合っているなんて嘘ついて」

「……えっ?うううっ、うそぉ!嘘っていった?」


 三度聞き直して言質を取り、美嗣の顔は晴れやかになった。付き合っていた過去もないし、他に彼女がいた事もないらしい。ガッツポーズをして飛び跳ねながら喜ぶ美嗣をエメは微笑みながら見ていた。

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