第25話 竜王・ゴルドバベラム


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 その日は爽やかな目覚めだった。

 鳥の囀りと共に起きた美嗣は窓際に腰掛けるレイの姿を見付ける。小鳥を指先にとめて憂いを含んだ視線を落としている。国宝級の景色を美嗣は透かさず写真に納める。


 シャッター音に気付いて振り返ったレイの美顔も激写。呆れ顔のレイに「おはよう」を告げて、一日が始まった。その時の美嗣は、ただ同じ日常が始まっただけだと思っていた。あんな惨劇が起こるなんて知りもしなかった。


 ◼


 美嗣がこの世界に来てからもう半年が経った。冒険者の仕事にも慣れてきて、ランクも銀に上がった。貯金も貯まってきたので新しい武器か礼装を買うのもいいだろう。だが、相変わらず『紺碧の剣』の行方は掴めない。ああ、鍛練ランク5、レベル90のカインのモチ武器はどこにあるのだろう。素材は全部集まっているのに!


 いつも通り冒険者協会に来たが中に入れなかった。閉まっていたのではなく、人集りで通行できなかったのだ。群衆は依頼書が貼ってある掲示板の前に集中しているようで、外からはどんな依頼が来ているのか見えない。


 しばらくすると、何人かづつ外へ出て行き人混みは減っていった。皆一様に興奮気味に去っていくことが気になったが、ようやく中へ入り掲示板を目にする。


 依頼が貼ってある巨大なボードの真ん中に縦594×横420㎜の大きな紙が掲示してあった。紙は古紙や布ではなく上質な羊皮紙であった。手書きの文字ではなく、製本で使われる活字印刷により記されたフラム文字。


 装飾には金箔が使われているなど、なかなか豪勢な貼り紙である。美嗣は書いてある内容に目を通す。フラム文字はこのローブ王国特有の文字なので、異世界人の美嗣には読解できない。だが、美嗣は閲覧のスキルを使えば勝手に日本語へ自動翻訳されるのだ。万能スキルで助かったぜ!


 依頼書にはこう書かれていた。『ローブ王国129代国王、フランソワ14世より勅令である。東の魔境に棲まう竜王・ゴルドバベラムを討ち倒せ。さすれば褒賞を与えよう』


 ゴルドバベラム?

 あー!ローブ王国のラスボスか。巨大なヴィーヴルのモンスターで東の奥地・紫霧の森に棲んでいる。当時はキャラレベル50、武器のレベル60までしか上げられなかったので、苦戦して何度も死んだ記憶があった。レベル100になった今ではダメチャレの的にすらならないザコモンスターである。


『褒賞内容①金貨1000枚②銀翼の鎧③約束された勝利、月夜の銀章、原初の輪』


 褒賞はお金と礼装と装備だった。金貨100枚は確かに魅力的だが、今は特に金不足に悩まされていない。礼装と装備も惹かれるものではなかった。だが、最後の1つだけが美嗣が喉から手が出るほど欲しかったものだった。


『④紺碧の剣』


 こっ、こここここっ、こんぺきのけんんんんっ!美嗣は動揺を抑えられず、何度もその行を見返した。そこには確かに『紺碧の剣』と書かれており、見つからなかった最後のピースが出てきたようだった。


【紺碧の剣 攻撃力620 神力44.8% スキルを当てると攻撃力+20%、20秒間継続。1秒ごとに神力が0.8%上がっていく】


 神力を強化してくれる武器は当時は紺碧の剣しかなく、さらに最大100も神力をupしてくれる。カインだけでなく剣キャラなら誰でも合う最強武器であった。絶対に手に入れなければ!


 浮き足立つ美嗣とは対照的にカインは眉をひそめる。王政府が冒険者に出した依頼に憤りを感じた。自国が抱える問題を騎士ではなく、冒険者に丸投げしたのだ。怒りに任せて紙を破り捨ててしまおうかとした時、それ以上の不快感が右側からやって来る。


「カイン!ゴルドバベラムを倒しに行こう!」

「はぁっ?」


 目を輝かせながら妄言を吐く美嗣にカインは目眩がした。そこから協会内に響き渡るほどの口喧嘩が繰り広げられられる。


「なんで、ダメなの!?国から依頼がきているんだよ!倒せばレア武器も貰えるし、やろうよ!」

「ダメだ!ゴルドバベラムなんて魔物、俺達に敵うわけないだろ!本来なら騎士がやるべき事だ!」

「騎士団がいなくても大丈夫だよ!私、攻撃パターン覚えているし、何より紺碧の剣だよ!あなたのモチ武器だよ!」


 美嗣が我欲に溺れているのを感じ取ったカインは更に強く反対した。絶望的に噛み合わず、ついにはカインが怒ってしまう。


「やりたければ勝手にしろ!俺は行かない!」

「ええ!そんな!うちのアタッカーはカインなんだよ!あなたがいないんじゃ、挑めないよぉ!」


 すがる美嗣を無視してカインは出ていこうとする。焦った美嗣はカインに対して『禁句』を言ってしまう。


「ゴルドバベラムはカインの『仇』じゃないの!?」


 空気が張り詰めた。ゆっくりと振り返り、美嗣を睨み付けるカインの目には憎悪と嫌悪が見てとれた。美嗣をタブーを言ってしまった事に気付き、謝罪しようとしたがカインが遮った。


「今のは許してやる。この話は終わりだ……」


 静かに出ていくカインに美嗣は何も言えなくなってしまい、ただ黙っていた。

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