第22話 同人誌展開はいやぁ!

 美嗣は冒険者協会、鍛冶屋、宝石店に寄ってから買い物に向かう。お決まりのルートを回り終わってハウスの階段を上がっていると、急に手を引かれた。廊下に荷物を落として、部屋の中に連れ込まれると、今朝カインと話していた二人がいた。


 自分達をパーティーに入れてくれと頼んできた。美嗣はいいサポート能力があるなら、入れてもいいと言い仕方なく閲覧を使う。


「あ~じゃぁ~、武器と礼装と装備を取ってください。視てみますから」


 ローテンションで指示を出す美嗣。

 だって、こんなおっさん達の下着姿見るなんて、なんて罰ゲーム?嫌なんだけど……。


 閲覧で見てみたが、一人は多少のバフと追撃効果があり、もう一人はシールダーで奥義で6秒間は無敵状態が作れる。確かにいい能力だが、二人をパーティーに迎え入れる事はしない。だって、好みじゃないし!


「何でだよ!カイン達にはあれだけ尽くしているのによぉ!」

「好きだから尽くしているの!愛がなきゃできない事だよ!」


 推し活は愛だよ!好きじゃないとできない!男達は美嗣の不敵な態度に納得できず、美嗣を襲ってきた。自分達を好きになれば問題ないだろうと曲解したのだ。


「ちょっと、やめて!はなして!」


 美嗣は悲鳴を上げたが、布を口に入れられ声を出せなくなった。そのままベッドに押さえつけられた。


 ええ!やだっ、やだっ!こんな奴らと初体験なんて絶対にやだっ!主要キャラがモブに犯される同人誌はよくあるけど、自分がレイプされるなんて考えたくない。美嗣は手も布で縛られて、ベッドの縁に固定される。足も捕まれて身動きがとれなくなった。


 もういいや、抵抗できない。どうせ一生彼氏なんて出来ないし、喪女確定なんだから一回くらいいいだろう。どうせなら妄想で全て補完してやる!


 美嗣は固く目を閉じて、感覚を閉ざした。男達のダミ声もカインの声優さんの声に置き換えて、まさぐられている手もカインのものだと妄想する事にした。タンクトップを破かれて胸を触られた。全身ご粟立つのを感じたが、カインの顔や肌や筋肉を思い出して耐える。


『……みつぐ、美嗣!』


 わ~、すごい!カインの声が脳内再生されてる!やっぱゆ~たんはイケボだなぁ。極限の精神状態のため美嗣は妄想と現実の区別がつかなくなっていた。


「おい、目を開けろ!ミツグ!」


 ゆっくりと目を開けると、妄想内と同じ推しキャラが目の前にいる。美嗣は茫然としているとカインは猿轡を取り、手の拘束も解いた。シャツを脱いで美嗣の体にかける。


 美嗣はおもむろに上体を起こすと、床に倒れている男達を見つける。カインの匂いがするシャツを抱きしてると自然と涙が流れた。辱しめられそうになった恐怖が込み上げてきて、ポロポロと落涙する。カインは美嗣が泣き止むまで、彼女をそっと抱きしめた。



 3階の部屋に戻ると心配したアリアナに抱きしめられ、更に安心感を得られた。四人でテーブルを囲むと、カインがある提案をしてきた。


「3人のランクが銅になった事だし、中層ハウスへ移ってもいいだろう。ちょうど一部屋空きが出来たから明日にでも移れる」


 下層ハウスは家賃は安いが、ならず者が多く無法地帯な場所でもある。女性の冒険者は多少値が張っても中層ハウスで暮らすのが不文律であった。飢えた獣の檻に女性が3人も暮らしているので、いずれ間違いが起こるだろう事は予想出来た。


 実際、夜更けに部屋に忍び込んで夜這いをしに来た輩が何人もいて、気付かれない内にカインが押さえ付けて追い払っていた。中層ハウスへの移動もずっと前から申請していた。


「……そんな根回しまでしていたなんて、気を使わせちゃってごめん」

「そうだな。お前とアリアナがシャワーの度にイチャつくから、ドアの前で牽制しないといけなかったな」


 うぅ、シャワーの度にアリアナの体を洗って喘がせていたのがバレてる!


「それと、装備見ながら訳の分からん事をブツブツ言うのをやめろ!鬱陶しい!」


 美嗣はだんだんと小さくなり、人の形を保てなくなってきた。


「あと、俺が着替えている時とシャワーを浴びている時に覗くな!気色悪い!」


 美嗣の形状はついに液体化し、スライムのように小さく丸くなった。


「ううっ、うっ、ごめんなさい。こんなダメで、グズで、変態で、ごめんなさい。奇声とか悲鳴とかあげて、セクハラやパワハラをしてしまい、申し訳ありませんでした。私なんてザコスライムのように狩られて、ゲームオーバーになればいいんだぁぁぁ……」


 カインの厳しい指摘に床を濡らす勢いで泣きじゃくる美嗣。アリアナが慰めるも懺悔の言葉は止まらない。


「みんな……私の事キライだよね。こんなパーティーにいたくないよね……」

「そんな事ありませんよ。私はミツグさんが拾って下さらなかったら、落ちぶれていましたし。あなたと一緒にいたいです」

「契約がある限り、妾はそなたの側を離れぬ」


 アリアナとレイの気持ちは確認できた。美嗣は恐る恐るカインを見上げて返事を待つ。


「……まぁ、俺も抜けるつもりはない。お前は変な奴だが、指示は的確だし、金をちょろまかしたり、俺を利用したりはしないからな。さっき言ったことを注意してくれればそれでいい」


 美嗣の表情は明るくなり、形体も人に戻った。美嗣達は次の日には中層ハウスに移り、少し快適な生活を始める事となった。



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