本当にあった本屋

味噌わさび

第1話

「……こんな所に本屋が」


 ふと、町を歩いていると、小さな本屋を見つけた。いつもなら通り過ぎてしまいそうな場所だったが……俺は入ってみることにした。


 少し埃っぽい臭いがする店内は、当然のことながら、本がずらっと並んでいる。


「……すみません? あれ? 誰もいないのかな?」


 声をかけてみたが……誰もいないようである。店を開けたままでどこかに出かけてしまったのだろうか。


 俺は不審に思いながらも、何気なく本を一冊手に取ってみる。


「……あれ? なんか、挟まっているぞ」


 と、本を開いた瞬間に、しおりのようなものが落ちた。俺はしおりを手に取る。


 しおりに何か書いてあるようだ。俺は手にとって確認してみた。


「……『いらっしゃいませ』? え? なんだこれ」


 俺は思わずしおりを本に戻して、本自体も棚に戻した。そして、別の本を手にとって見る。


 と、またしてもしおりが挟まっていた。しおりには文字が書いてある。


「『よく来てくれました。ずっと人が来るのを待っていたんですよ』……。お、おいおい……これって……」


 俺は流石に怖くなって本を棚に戻す。と……そのまま店を出ようとして、誤って近くの棚にぶつかってしまった。


 それと同時に一気に本が崩れ落ちる。崩れ落ちたすべての本からしおりが飛び出した。


 そして、そのしおりの全てに文字が書いてある。


「どうしたんですか?」「ずっとここにいていいんですよ」「ここにはたくさん本がありますからね」等など……。


 俺は完全に恐怖してしまい、そのままその本屋を飛び出した。


 それから、俺はその近くは通らないようにしている。無論、色々調べたが、あんなところに古本屋なんてないようだ。


 俺は幻覚でも見ていたのか……そう思いたがったが、そうではない。


 本当にあの場所に、あの本屋はあったのだ。


 あの日、家に帰って、胸ポケットに何かが入っているのに気付いた。


 それは……しおりだった。しおりには、またしても文字が書いてあった。


 「またのお越しを、お待ちしています」と。

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