第4話 6年後

 そして六年後。

「なんです!! あなた達」

 農家の玄関先で、一人の女性が数名の黒服の男たちに囲まれていた。女性の背後では五歳になる息子が怯えている。

 黒服の一人が進み出た。

「奥さん。私の顔をテレビなどで見た事はありませんか? 私は現在地球連邦を治めている総統代行です」

「そんな偉い方が家みたいな農家に何の用です?」

「我々は手荒な事をする気はありません。お子様に用があるのです」

 女性は息子をぎゅっと抱きしめる。

「うちの坊やが何をしたと言うのです?」

 総統代行は子供の顔を覗き込む。

「閣下。お迎えに来ました」

 それを聞いて少年の顔から怯えが消えた。

「ああ、そうだったね。思い出したよ」

 通常、前世の記憶というものは五~六歳ごろまで微かに残留しているものである。

 しかし、この少年の場合は死神が細工したことにより、かなり鮮明な記憶が残っていたのであった。

「思い出しましたか? お亡くなりになる前に転生相続法を施行された事を」

「ああ。思い出した。という事は僕……いや、私の休暇は終わったのだな」

「さようでございます」

「私がいない間、どうだった?」

「大変でした。世界をまとめるのがこんな大変だったとは」

「苦労かけて済まなかった」

 少年は母親に向き直る。

「母さん。僕は六年前に死んだ世界総統の生まれ変わりなんだ」

「おまえ……いったい何を言って」

「転生相続法によって僕は総統の地位を継がなきゃならない。だから、これから総統府に行ってくる」

「行かないでおくれ!! お前は私の息子なんだよ」

 少年は母親の方を振り返る。

「母さん。今夜はカレーライスにしてね」

「え?」

「あの、閣下……」

「ん? なんだい? 総統代行」

「まさか、ここから総統府に通われるのですか?」

「そうだよ」

「しかし、セキュリティの問題が……」

「大丈夫だよ。死神は私の次の死期を教えてくれた。私は八十年後に宇宙人を撃退するまで死なないそうだ」

 少年は黒服たちの用意した車に乗り走り去って行った。


            了

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後継者 津嶋朋靖 @matsunokiyama827

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