第2話 地球防衛軍
「死神だと!?」
総統閣下は青ざめた。
「なんて事だ。ようやく世界を統一して、これからだと言うのに」
「ああ、勘違いしないでください。迎えにきたわけではありません」
「ではなにをしにきた?」
「閣下の死期を伝えにきたのです」
「死期だと?」
「はい。本来は死神が人間に死期を教える事はありません。しかし、他者への影響力の大きい人間には、特例として早めに死期を教えることになっているのです」
「なぜだ?」
「例えばワクチンの研究者。その人が開発したワクチンによって億単位の人間が救われる予定だとしましょう。ところが研究者の死期が一年後に迫っています。研究者はそんな事も知らないで研究を怠けていたとします。このままワクチンが完成しないで彼が死んでしまったら、億単位の人間の寿命が変わってしまいます。そうなると死神は閻魔帳の書き換え作業に忙殺されて、通常業務である魂の送迎にも支障をきたします」
「なるほど」
「そのぐらいなら、研究者に死期を教えてワクチン開発を急いでもらった方がよいでしょう。だから、研究者のところへ我々が出向いて『先生。締め切りまで一年しかないんですよ。早くワクチンを完成させてください』と発破をかけにいくのです」
「ちょっと待て! なんだ? その『締め切り』というのは?」
「分かりやすい例えですよ。『締め切り』が気に入らないなら『納期』でもいいですが」
「いや、表現方法はどうでもいいが、今の話によると、私も何かを成し遂げないと億単位の寿命が変わってくるというのか?」
「当然でしょ。閣下は人類史上誰も成し遂げた事のない世界征服を成し遂げたのですよ。影響ないわけないでしょう」
アレキサンダー大王に始まりナポレオン、ヒットラーに至るまで誰一人成し遂げる事の出来なかった偉業を成し遂げたのである。
当然、その生き死には大勢の人間に影響するはずだ。
「ちなみに、閣下の場合は億単位などというレベルではありません」
「百億ぐらいか?」
「いえ、閣下が死ぬまでに、ある事を成し遂げていただかないと、人類が滅亡するのです」
「人類滅亡だと!? いやいくらなんでも……」
「大げさではありません。百年後に人類は滅びるのです。そんな事にでもなったら、死者の魂を霊界に導くことを生業としている我々死神は商売あがったりです」
「それって……商売なのか?」
「商売です」
「ま……まあ、それはいいとして……いったい百年後に何が起こるんだ?」
「宇宙人が攻めて来るのです。しかし、今の時点で、閣下が地球防衛軍を創設していれば撃退できるはずです」
「気の長い話だな。そんな先の話なら、私の後継者にでも……」
「ダメです。今から準備しなければ間に合いません。今、閣下が地球防衛軍の礎を作っておかないと、百年後に地球は宇宙人に蹂躙され人類は滅ぼされてしまうのです」
「滅ぼされるのか? せめて奴隷化で勘弁してもらえないのか?」
「それで許されるぐらいなら苦労しません。奴隷でも生きていれば我々の仕事はなくならないのですが、奴らが来たら確実に我々は失業することになるのです」
「いや……お前、人類滅亡より、自分の失業を心配してないか?」
「何か問題でも?」
「それって、人としてどっか間違っていないかと……」
「それは仕方ありません。私は人間ではなく死神なのだから」
「そうだった。それで私は後何年生きてられるんだ?」
「二十二年と三か月、誤差プラスマイナス三年です」
「なんだ? そのプラスマイナスというのは?」
「死期はきっちり決まっているわけではありません。状況に応じて増減できるのです」
「とにかく、私の寿命は三年延長できるのだな。それでも二十五年で地球防衛軍などできるかな? まだ月面基地すら建設中だというのに……」
「なんとしても作っていただきます」
その日以来、総統閣下は地球防衛軍創設のため骨身を削って働いた。しかし、ことはそう簡単に運ばなかったのである。
せっかく軍事費負担から解放されたのに、また負担させられることに対する市民の不満もさることながら、地球防衛軍の必要性を人々に納得させるのが大変だった。
まさか、死神に教えられたと言うわけにもいかないし、どうやってみんなに説明するか、総統閣下は大いに頭を悩ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます