後継者
津嶋朋靖
第1話 死神来訪
その男は突然やってきた。
何人も侵入できないはずの警戒厳重な部屋の中に……
この部屋の主である総統閣下は、暗殺者かと警戒した。
無理もない。
総統閣下は、世界でもっとも命を狙われている人物であるからだ。
なぜなら、彼は一年前に全世界を征服して、地球を統一国家にしたのである。当然、敵も多い。だが、勘違いしないでほしいのだが、彼は決して悪い人ではない。そもそも世界征服=悪と考えるのは早計である。
彼が地球統一国家を作ってまずやった事は差別禁止。人種、性別、宗教などで人を差別する事を禁止したのだ。次にやったのは世界中の国軍を解散して、世界警察軍と世界災害救助隊に再編したこと。
このおかげで人々は膨大な軍事費負担から解放されたわけだ。
彼に敵は多いが、それ以上に味方も多かった。
それでも暗殺の危険は常にある。
だから普段、総統閣下は厳重な警備システムで守られた部屋に一人でいる事が多かった。だが、その警備システムをあざ笑うかのように、一人の男が部屋の中に入ってきたのだ。
今にも男が銃を抜いて撃ってくる。
というような光景が総統の脳裏に浮かんだ。
だが、男はそのような物騒なことはせず、総統閣下の前に出ると恭しく跪いた。
「無断で閣下の執務室に入ってきたことをお許しください。私は決して怪しい者ではありません」
「ここに入ってきただけで十分怪しいわ!! いったい何者だ?」
「私は人間ではありません」
「人間ではないだと? しかし、どうみても……」
歳の頃は三十代半ば。身なりは普通のスーツ姿である。
どうみても平凡なサラリーマンだ。
「閣下には、私がどのような姿に見えますか?」
「会社勤めのサラリーマンに見えるが……」
「なるほど。閣下には私がサラリーマンに見えますか。実は私には本来の姿というものがありません。見た人にとって、もっとも普通だと思える姿になるのです」
「なに?」
「それにしても、世界の頂点に立つ総統閣下の事ですから、『普通の人間』とは政治家とか軍人とか官僚とかになると思っていましたが、サラリーマンとは以外と庶民的ですな」
「ほっとけ。それでいったいおまえは誰なのだ?」
「はい。私は生と死を司る者。人間からは死神と呼ばれている者でございます」
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