名前も知らない相手。
「好きです。付き合ってもらえませんか?」
学校の登校中、電車を降りると、見ず知らずの女の子からそう言われた。
周りを見渡しても、僕以外に誰もいない。
当然、彼女は僕を見ていた。高校の制服を着ていることから、他校の生徒だろう。
何で、僕!?
「えっと……失礼だけど、間違ってないよね?」
「はい、あなたで間違いありません」
僕は今、付き合ってほしいと告白されているのだ。
ぱっちり二重で、随分と小柄だが、彼女のことを僕は何も知らない。
金髪が揺れて、素顔が少しあらわになると、どこかのハーフなのだろうとわかった。
「すみません。僕はあなたの名前も知らなくて……」
「そう……ですよね。一方的にごめんなさいっ」
そう言い残して、彼女は去って行く。僕は反射的に声をかけたが、すぐに姿を見失ってしまった。
……一体誰だったんだろう。
もし僕が了承していれば、あの子と付き合っていたのだろうか。そう思うと、なんだか不思議な感じがした。
今までそんなことがなかったので、嬉しさより驚きが勝ってしまっている。
でも、もう一度会えたらいいな、そんな高揚した気持ちで学校に行った。
◇
「すみません、一晩中考えていたんですが、断られたと勘違いして離れちゃいました……」
翌朝、彼女は瞼を腫らした状態で現れた。もしかして……泣いていた?
「僕の言い方が悪かっただけですよ。ごめんなさい」
二人してなぜか謝ると、彼女はふふふと笑った。
「私の名前は――――」
次の瞬間、電車が通って、彼女の声が遮られた。僕は聞き返したが、彼女はスマホを見て慌てる。
「あ、やばい遅刻だ! ごめんなさい、また明日!」
そう言い残すと、彼女は再び消えていく。結局、名前がわからなかった。でも、また明日と言ってくれた。
名前も知らない彼女と会うのが、少し楽しみになった。
しかし翌朝、彼女は現れなず、その翌日、そのまた翌日も彼女は姿を見せなかった。
気づけば僕は、彼女を待っていた。
初めて僕に告白してくれた彼女の名前が、知りたかった。
◇
「youさん」
「え? あ、紫乃、おはよう」
「どうしたんですか? 少し、残念そうな顔してませんか?」
「あ、いや、そんなことないよ」
「ふうん?」
紫乃は勘が鋭い。残念だったわけではないが、期待していた分、少し悲し気な表情を浮かべていたのかもしれない。
心のモヤモヤが晴れなかったので、思い切って相談してみた。
「実は――」
「そうですか……。その制服、私は知りませんね」
「そっか……」
結局、彼女の高校がどこなのかはわからなかった。紫乃も、未海と朱音にも後日訊ねてみたが、わからないとのことだった。
「youさんは、その人が気になるんですか?」
紫乃が、顔色をうかがように言った。
「そうだね、気になるかも。人に告白されたのって初めてだから」
「ふうん、正直ヤキモチ妬きますけど、だったら友達に聞いて見ますよ」
「ほんと? ありがとう」
「いえいえ、好きなわけではなく、知りたい、ですよね?」
念入りにという感じで、紫乃に釘を刺された。もちろん僕は頷く。
わかりました、と紫乃は答えた。
その一週間後、紫乃は「見つけましたよ」と言った。
そしてその女の子は、僕が予想もしていない子だった。
————————————
次の更新で正体がわかるようになっています!
つづく、という形になりましたが、待って頂けると嬉しいです(^^)/
『一体誰なんだろう?』
『続き早くみたい!』
『紫乃が優しい』
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