朱音とオタ活

「雄二、おはよう」


 待ち合わせの駅、現れた朱音に驚く。

 以前はロリータファッションだったが、今日は花柄のワンピースだ。

 

 麦わら帽子がとてもよく似合っている。


「おはよう。今日は以前と違うんだね」


「服は、毎回変わる。変?」


「そんなことないよ。凄く可愛い」


 いつもより頬を紅潮させて、突然、僕の腕を掴んだ。


「嬉しい。行こう」


「え、あ、ああ」


 今日は二人で欲しいアニメのグッズやライトノベルを買う予定だ。

 

 紫乃と未海と趣味が合わないわけじゃないが、朱音とは見事にピッタリ合う。


「昨日のアニメ見た?」


「見たよ。主人公の魔法攻撃、かっこよかったなあ」


「かっこよかった。でも、雄二のかっこいい」


 朱音は好意をわかりやすく伝えてくれる。恥ずかしさもあるが、趣味が合う分、緊張は少ない。


 オタ話をしていると、すぐにアニメショップについた。


 同人誌、ゲーム、小説、コスプレの衣装からグッズまで何でも置いている。


 最近は来れてなかったので、入口からテンションが上がった。


「行こう、雄二!」


 どうやら朱音も同じらしく、いい笑顔をしていた。


 ◇


「持てない……」


 結局、数時間以上も滞在していた。朱音の両手には、僕とは比べ物にならないほど大量の購入品を持っている。


「ほら、貸して」


 ひょいと受け取ると、朱音はパチパチと拍手した。


「さすが、男の子」


「このくらいはね。でも、まさか新刊が入ってると思わなかったね」


「びっくり。10年ぶりだって」


 僕たちが図書館で仲良くなったきっかけの別作品が、新しく出ていたのだ。


 テンションが上がりすぎて、朱音と一緒にお店の人に注意されちゃったけど……。


「良かったら、今から一緒に見る?」


「え、いいの? 見たいかも……」


 また朱音の家に行くのは恥ずかしさもある。けれども、楽しみだった。


「そこのベンチで」


「え? あ、ああ、そうだよね!」


 まさかの早とちりで、顔から火が噴き出そうになる。はあ……調子に乗り過ぎだ……。


 椅子に座って一緒に本を読んでいると、朱音からびっくりするぐらいフローラルな香りが漂ってくる。


「いい匂いだな……」


「え?」


「あ、ごめんっ。もしかして、香水?」


「……そう。気づいてもらえて、良かった。実は今日のために買った」


「え、今日のため? 僕と遊ぶために?」


 無言でコクコクと頷く。こういう所が健気で可愛い。って、先輩なんだった……。


 いつも忘れそうになる。


「雄二のペースに合わせるから、このページが読み終わったら言って」


 ただ、朱音はずっと優しい。今もそうだが、買い物している時でも、ずっと僕に着いてきてくれたり、面白そうなのがあるとすぐに教えてくれる。


 趣味が合うと、沈黙だって辛くないんだよなあ。



「それじゃあ、今日はここで」


 さすがに全部は無理だったので、三分の一ほど読み終えると、次回に持ち越しにした。


 あまり遅くなると危ないと、朱音のほうから言われてしまったのは、男としてダメかもしれない。反省だ……。


「じゃあ、雄二」


 最後に駆け寄って、僕の耳元で「今日は楽しかった。雄二といると、自然と笑顔になる」小さくそう言った。


「あ、ええ、ああ、ええーと、ま、またね!」


「ばいばい」


 やっぱり、先輩だ……。


 最後、振り返る朱音は、少し小悪魔的に笑っていた気がする。


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