未海と二人で初デート

「you様、突然だけど明日何してますか?」


 昨晩、未海からこんなメッセージが来た。


 紫乃や朱音より天真爛漫なイメージがあるが、実は礼儀正しさではピカ一だ。


 そもそも、ずっと様づけなのは気になるけど……。


 内容を訊ねて見ると、行きたいところがあるので着いてきてほしいとのことだった。


 僕は了承、お昼ごろに待ち合わせとなった。


 そして話が終わったかと思えば、他愛もないメッセージが続く。


「you様はどんな人が好きなんですか?」


「you様は何が好きですか?」


「you様は趣味とかありますか?」


 友達とそんなに連絡を重ねたことがないので、質問は多かったけれど、メール楽しかった。


 最後に未海は、おやすみなさいと合わせて、まさかの自撮りの写真を送ってくれた。


 パジャマ姿だけれども、もの凄く可愛い。


 なぜか、キス顔なのが気になるけど。


「何をどうやって返せばいいんだろう……」


 ただ恥ずかしくておやすみとだけ送ったら、むう、おやすみなさいと返されたので、少し不満だったらしい。


 でも勝手に笑顔がこぼれて、気づいたら眠りについた。


 ◇


「you様は最後に彼女がいたのはいつなんですか?」


 翌日、目的地に向かって歩いていると、未海から質問が飛んできた。


 僕は困ってしまって、苦笑いで頬を掻いて答える。


「はは、ええと、一度も……ないよ」


「え、一度もって、その一度も?」


「恥ずかしいけど、そう」


 未海は、えええええっと叫ぶ。そんなに驚くことじゃないと思うけれど、彼女にとってはびっくりだったらしい。


「未海は?」


「あたしも……ない……えへへ」


 それこそ意外だった。未海は明るくて人当たりがいいし、顔なんてすごく綺麗だ。


 所謂、モテるタイプなのは間違いないだろう。といっても、紫乃や朱音もそうだと思うけど。


「そもそも友達がそんないないからね。あたしにはVTuberとyou様がいるので、大丈夫っ!」


「そこに僕の名前が入ってるのが恥ずかしいよ」


 未海は好意を直接ぶつけてくれる。恥ずかしいけれど、嬉しくもある。

 

 ただ、恥ずかしいのは本人もらしく、耳が真っ赤だ。


「あ、つ、着いたよ!」


 そうして到着した看板には、クレープ屋と書かれている。けれども、結構並んでいる。


 それも――カップルばかりだ。思わず二人で目を合わせてから、恥ずかしくなってそっぽ向く。


「な、並ばないと! どんどん人が!」


「そうだね、まさかここまでとは思わなかった。未海、後ろ――」


 その時、急ごうと駆け足になって未海が、人とぶつかりそうになる。思わず手を引っ張った。


「あ……」

「ん……」


 次の瞬間、勢い余って抱きしめたみたいになってしまう。周りはカップルだらけなので違和感はないが、微笑ましかったのか声を漏らす。


「みてみて、高校生かな? 仲良しだね」

「ふふふ、可愛いー」

「俺も……あんないちゃいちゃしたい」


 その声を未海も聞こえてしまったらしく、二人で頬を赤らめながら並び、結局一言も言葉を交わすことはなかった。


「お待たせしました。どうぞ、窓席へー!」


 すぐに順番が来て、僕たちは席に座った。ここでようやく落ち着いたのか、未海と僕はメニューを見ながらどれにするかと話した。


 甘い物が好きらしく、ここは人気店で前から行きたかったらしい。


 店内は女の子が好きそうな色どりで、スイーツのぬいぐるみがオブジェクトとして置かれている。


「you様はどれにするの?」


「僕はこの苺のパンケーキかな。未海は?」


「私はチョコレートのパンケーキで、クリームトッピングしようかと!」


「ふふふ、好きなんだね。じゃあ、せっかくだから僕もしようかな」


 そうしてまた僕たちは、昨晩のメッセージのように色々なことを話した。


 未海は物知りで、僕が見たことのないアニメやゲームに詳しい。



「わ、美味しそう……。すみません、写真は撮影していいですか?」


「もちろん構いませんよ。それではごゆっくり」


 店員さんに対してや、何か訊ねるときの未海はとても丁寧だ。こういうところを見ていると、凄くいい子なんだなってわかる。


「はうはう♡ 美味しいね、you様!」


「ああ、最高だ。あんまりこういう所に来れないから、誘ってもらえて嬉しかったよ」


「じゃあ、次にお店見つけたらまた誘うね」


 二人きりで出かけるのは初めてだったが、未海の新たな面をいくつも知った気がする。



「なんだかごめんね、あたしが誘ったのに出してもらって……」


「いや、楽しかったから大丈夫だよ。それに少しずつ収益ももらえてるのは、未海や紫乃たちのおかげでもあるからね」


 帰り道、いつものお礼として出させてもらったが、未海は恐縮してしまっていた。もしかしたら、次にお店を誘うのもしづらいかもしれない。


「だったら、次は未海に出してもらおうかな。それなら、何度も二人でお店に行けるし」


「あ! 賛成賛成! じゃあ、次はあたしが! よおし、どこにしよっかなー。明日にする?」


「そんなハイスペースで食べてたら太っちゃいそう。実は僕、昔結構ぽちゃっとしてたんだ」


「へえ、見えないですね!? でも、太ったyou様も可愛いだろうなあ」


 少し先を歩いていた未海は、振り返りながら屈託のない笑みでそう言った。


 どんなことも好きだと可愛いと言ってくれる彼女といると、幸せを感じることができる。


「それじゃあまた明日学校で」


「ああ、気を付けて帰ってね」


 そうして別れて自宅に帰ったあと、未海からメッセージが届いた。


 そこには、僕と二人でパンケーキを頬張っている姿だった。


 ただ……ここは紫乃や朱音がいるグループチャットだ。


 実は二人を誘おうとしたが、どちらも予定があってダメだった。


「まさか二人で行ったんですか!? ズルいです! ああもう! 仲良さそうに!」

「雄二、幸せそう。鼻の下、伸びてる。えっち」


 僕はなぜか二人に責められ、次回、パンケーキを奢ることになったのだった。

 



 

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