紫乃にサプライズプレゼント
「こちらプレゼント用でよろしいでしょうか?」
「はい、宜しくお願いします。リボンはピンクで」
久しぶりにショッピングモールへ来ていた。
ああでもないこうでもないと悩みつつ、里奈のおすすめもあって、プレゼントを選んだ。
思っていたより時間はかかってしまったが、約束の時間には間に合いそうだ。
一時間後、紫乃の家の近くの公園で待ち合わせ。
今日は――彼女の誕生日なのだ。
女の子にプレゼントなんて買ったことがないので、内心はかなりドキドキしている。
紫乃の性格はわかっているので嬉しくないとは言わないだろうが、本心から喜んでほしい。
未海と朱音はまだ先なので、なんだか申し訳ない気持ちもあるが、こればっかりは仕方ない。
「どうぞ、こちらです。――きっと喜んでもらえると思いますよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
店員のお姉さんに笑顔でそう言ってもらい、ホッと胸を撫でおろす。
帰ったら、色々と調べてくれた里奈にもちゃんとお礼を言っておかないといけないな。
そうしているうちに、時間が迫っていた。
急いでモールを出て駅に向かっていると、通りすがりの公園の隅っこでしゃがみ込んでいる少女がいた。
周りを見ても、両親らしき人はいない。
……迷子かな?
ひとまず話を聞いてみようと、駆け寄って声をかけた。
顔を上げると、まだほんの幼稚園くらいだった。
「なんでここにいるの? ママやパパは?」
「いなくなっちゃった……」
今にも泣きだしそうな顔をしている。しかし待ち合わせはもうすぐだ。
可哀想だが、誰かにお願いするべきか……。
すると、少女は僕の服の袖を掴む。
「怖いよお……」
段々と夕日が落ちていく。確かに怖いだろう。
せめて、周りを二人で確認してみるか。
「じゃあ、お兄ちゃんと一緒に探そっか? きっと近くにいるはずだから」
「うんっ!」
しかし、周りには誰もいなかった。
流石に時間がかかりすぎていたので、少女には申し訳ないが警察に届けるしかないと思っていたら、ちょうど前から警察官が歩いてくる。
「すみません、この子迷子みたいで」
「ん? え、そうなのかい?」
年配の男性で、とても温和で優しそうだった。
「ちょっと交番で話しを聞かせてもらえるかな。君もいい?」
「お兄ちゃん……」
少女は、僕の袖を離さない。
「わかりました。行きます」
全てが終わった頃、時刻はかなり遅くなっていた。
紫乃は家族とあまり仲が良くないので、遅くに家を出ることはできない。
それをわかっていたが、どうしても今日会いたかった。
メッセージを送って、なんとか家の近くで、ほんの数分だけ会えることになった。
◇
「お待たせしました、ごめんなさい」
もこもこのパジャマで、小走りで現れる紫乃。
こういう姿も、凄く可愛いんだな……。いや、それは今じゃない!?
「ごめん、こんな遅くに……」
「あ、いえいえ! どうしましたか? もしかして、何かあったんですか?」
紫乃は、不安げな表情を浮かべる。そういえばあまりに急いでいて、事情を説明していなかった。
申し訳ないと思いつつ、すぐにプレゼントを渡す。
「これ、誕生日だよね」
「え? 私のために?」
驚いて目を見開く。ただ、桜井紫乃の誕生日はまだ先だ。
今日は――Angelが生まれた日。
「Angelの誕生日だよね。紫乃にとって、凄く大切だと思ったから」
「……嬉しいです。本当に……」
プレゼントを受け取って、涙を流しそうになる。僕は、開けてほしいと頼んだ。
「喜んでもらえると嬉しいんだけど……」
「これって……ネックレスですか?」
Angelの洋服に合わせた、ピンク色のハートのネックレス。
後ろには、日付が打刻されている。
「やっぱり、残るものがいいなとおもって。Angelのにそっくりでしょ?」
Angelは、胸元にネックレスを付けている。といっても、所謂ガワで、アバターなのだが、それとそっくりなのだ。
里奈と二人で調べて、なおかつ僕のお小遣いで買えるものだった。
「Angelはもう一人の紫乃だ。凄く大切だと知ってるからこそ、今日祝いたかった」
「youさん……ありがとうございますっ!!」
突然、抱きしめてくる紫乃。僕は慌てて叫びそうになるが、彼女は涙を流していた。
Angelは紫乃の叫びだ。こうありたいという姿そのもので、誰よりも大切にしていることを知っている。
「僕のほうがいつも助けてもらってるからね」
そうして僕は、時間いっぱい、紫乃の――Angelの頭を撫でた。
「youさんは、本当に素敵な人です」
「そこまでじゃないけど……」
「いえ、誰がなんというと、最高で素敵です!」
「ありがと、照れるよ」
その夜、少女の母親から僕にありがとうございますと電話があった。
どうやらあの後すぐに見つかったらしい。
後日、僕にお礼の品だといって母親がプレゼントを渡してくれたのだが、その際にもしかしてyouさんですか!? 大ファンなんです! と言われたのは、また別の話。
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