久しぶりの配信

「お兄ちゃん、この前はどこ行ってたの?」


「お兄ちゃん、桜井さんたちとどんな関係なの?」


「お兄ちゃん、私とは遊んでくれないの?」


 夕飯時、里奈は永遠に僕に質問を繰り返していた。


 結局、明日の学校終わりに遊ぶことになったのだけれど、最近は甘えん坊になってきている気がする。


 僕が引きこもりになっていた時は、声を掛けたくてもかけれなかったらしく、紫乃たちと遊んでいるのが更に寂しく思えるらしい。


「一緒に寝るのはダメ?」


「今日はちょっと宿題があるから、また明日な」


「むぅ、わかった」


 頭を撫でてやると、里奈は満足そうに部屋に入って行く。

 しかしこれは小さな嘘だった。


 最近配信をしていないので、久しぶりにしたかったのだ。

 

 まだ僕がyouだとは、里奈には伝えていない。いつ言おうか、それとも言う必要はあるのか悩んでいる。


 そういえば紫乃の過去を聞いてから、随分と距離が近づいた気がする。未海や朱音とも仲が良いし、あの日、勇気を出してから人生が良くなっていた。

 

 きっかけ一つで人生は変わると聞いたことがあるけど、本当なんだなあ。


 この前、電気屋で購入した機材をセットする。


 実は収益化が出来るようになったので、配信で得た費用で購入したものだ。


 だからこそ、リスナーたちにお礼が言いたかった。


 せっかくだから、実写にするか。生配信、ONっと。


「お久しぶりです、学校とか色々あって配信が出来ませんでした」


 次の瞬間、コメントが殺到する。なんか、前よりも随分と増えている。


『youさんだー、格好よくなりました?』


『you様の配信、一番乗りできなかった……』


『お風呂上りみたいで、かっこいい』


 誰かに似ているようなコメントもあるけれど、気のせいだろうか。


「皆のおかげもあって学校は順調です。あの時勇気をくれたコメントには感謝しているし、これからは配信とも両立していきたいから、頻度を増やしていこうと思っています」


『楽しみー! 最近流行ってるホラゲとかしてほしい』


『今度コラボしませんかー?』


『Angelたちとはまだ仲良くしてるの?』


 話は色々なことに移り変わり、次回は結局ホラゲをすることになった。


 かなり怖いらしいので、少し不安だが楽しみもある。


 何もかもが上向きだ。こんなに幸せでいいのだろうか。


 その時、一つのURLがコメントに貼られていた。


 誰かがクリックしたらしく、ざわついている。


『なにこれ? 盗撮?』


『やばくない? リア凸したってこと?』


『犯罪だろ。消せ』


『youさんじゃない?』


『ほんとだ、youだ』


『制服はまずいだろ』


 思わず手が震えてしまう。おそるおそるクリックすると、そこに映っていたのは僕だった。


 いや、正しくは僕だけじゃない。


 紫乃、未海、朱音と四人で学校を下校している、”僕たち” だった。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る