side――桜井紫乃。

「紫乃、どうしてあなたはお姉ちゃんみたいになれないの?」


「紫乃、お姉ちゃんみたいになりなさい」


「紫乃、黙ってたらわからないでしょ?」


 幼い頃、私は母に姉と比較ばかりされていた。


 姉は私なんかよりとっても優秀で、成績はトップクラス、人付き合いだって完璧だった。

 

 それに追いつかないといけなくて、毎日必死で勉強していた。


 けれども、私に才能はなかった。


 母はいつも姉を特別扱いし、父は仕事で忙しく構ってもらえなかった。


 ただ、本当につらかったのは、そんな姉が優しかったことだ。


「紫乃、あなたはあなただから、気にしないでいいのよ」


「私とあなたは違うから、無理しないで」


 今でこそわかるが、当時はそれが嫌味だと思っていた。


 そうして姉とはあまり口を利かなくなり、私は学校に行けなくなった。


 そこで出会ったのが、VTuberだ。


「みんな、よろしくねー!」


 自由で、それでいてキラキラしていて、私もやりたいと思った。


 初めはフリー素材のVTuberだったけれど、段々と人気が出てきたおかげで、大手から連絡が来た。


 そうして私のもう一人の私。

 何でも言えて、毒舌もあって、好きに感情を剥き出しにできる、『Angel』が生まれた。


 ◇


「そうだったんだ……紫乃は勉強も出来るし、何でも完璧だったからびっくりだよ」

 

 近くの公園に移動して、私の過去をyouさんに話していた。


 今まで誰も言ったことのない秘密。


 youさんは、本当に驚いていた。


「だからお母さんとお姉ちゃんとは仲良くないんです」


「そっか……辛かったね。でも、今の紫乃は凄く話しやすいし、Angelも、紫乃も、どっちも好きだよ」


「本当?」


 私は、ずっと自信がなかった。けれど、youさんの配信では、いつも皆を明るくさせていた。

 

 それに、自分自身を好きになろうと言っていた。


 youさんが元々引き籠っていたことをは配信を通じて知っているけれど、それでもyouさんは誰かのためにいつも相談を聞いていた。


 本当に優しい人だ……。


「好きなんて言ったら、勘違いしちゃいますよ?」


「え? あ、ご、ごめん……でも、本音だから」


「ふふふ、勘違いどころか、既にそうかもしれませんけどね」


「え、ええ!?」

 

 照れているyouさんも、凄くかわいい。


「よし、この近くに美味しいクレープ屋さんがあるんだけど、行かない? 僕のおすすめなんだ」


「え、行きたいです!」


 youさんは、決して無理に仲直りさせようとか、気持ちを押し付けたりしない。


 話を聞いてくれて、共感してくれる。それが、一番心地よい。


「私、苺が好きなんですよねー」


「僕はチョコレートかな」


「だったら、シェアしませんか? 二つとも食べたいです♪」


「いいね、じゃあ、行こうか?」


「はい♪ 手、繋いでいいですか?」


「え、手!? ……わかった」


「ありがとうございますっ」


 それに凄く男らしいです。これからももっと、わかり合えるといいな。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る