放課後、二人きり

「じゃあ、ボクは用事があるから」


「あたしも……紫乃っち、抜け駆けはダメだよ!」


「さあ、どうでしょうねー?」


 放課後、未海と朱音は用事があるとのことで別れた。

 

 僕は機材に必要なマイクを買うために電気屋さんに行くのだが、紫乃が着いてきてくれるらしい。


「久しぶりの二人きりですね」


「そうだね。まだ未海と朱音とは緊張するから、紫乃といる安心するよ」


「ふふふ、youさんはそうやって嬉しいこといってくれますよね」


 本音だったが、紫乃にとってすごく嬉しかったらしい。


 近くの電気街までは電車だ。駅に到着すると、紫乃が少し震えていた。


「大丈夫だよ。今日は僕がいるから」


「……ありがとうございます」


 あの日以来痴漢されてから、彼女は電車に乗っていないらしい。


 随分と怖い思いをしたのだから、当然だ。


 紫乃が可哀想で、そっと手を握る。


 自分でもこんな大胆なことができることに驚いたが、それよりも彼女を安心させたかった。


 それが少しでも役に立ったのか、それから紫乃は震えなかった。


 無事に到着。彼女は満面の笑みを浮かべた。


「youさんのおかげで、トラウマを克服できた気がします」


「そんな……大したことはしてないよ。でも、次また乗る機会があったらいつでも手伝うよ」


 いつも紫乃にはお世話になりっぱなしなので、せめてこのくらいはとカッコつけた。



 駅を降りると、人が大勢いた。まるでお祭りかと思うほどだが、この電気街はいつもだ。


 ただ、紫乃はあまり来ないらしく、目を見開いて驚いていた。


「もしかして……お祭りですか?」


「違うよ。このあたりはゲームとか漫画とかの店が多いんだ。多分だけど、VTuberのグッズとかも最近だと売ってるんじゃないのかな?」


「そうなんですか? 私、休みの日は結構家にいるのでそういうの知らないんですよね」


 そういえば、僕はなぜ紫乃がVTuberを始めたのかを知らない。


 僕はある種の逃避行動で、この世界に居場所がなかったからだ。


 けれども、僕が知る桜井紫乃はそうではない。


 可愛くて完璧で、何もかも卒なくこなす。ただ、皆がVTuberを始めるきっかけがそうだとは言わないけど、気になる。


「どうしたんですか? 私の顔に何か付いてます?」


 首を傾げる紫乃に、訊ねてみる。


「紫乃は、どうしてVTuberをはじめたの?」


 すぐに返事が返ってくると思っていた。


 なんとなく、とか、友達に勧められて、とか。


 けれども、紫乃は明らかに表情を曇らせた。


 今まで見たことがないほどか悲し気になる。


「実は……私、家で居場所がないんです」



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