VTuberのイベント、朱音の正体

「初めまして、高本雄二の彼女です。よろしく」


 堂々と、それでいて丁寧な所作で頭を下げる朱音。


 僕はもちろん、紫乃と未海もあんぐりと口を開けていた。


「朱音、彼女ってどういうこと……? 僕たちいつから付き合ってたの?」


「何が? この前、綺麗だなって言ってくれた」


 何が何だかさっぱりわからない。そういえば、前に自宅にお呼ばれしたときに言った覚えはある。


 それが付き合ったことになって……るのか?


「youさんちょっと待ってください。彼女いたんですか?」


「そうだよ! なんであたし達に黙って……」


「あ、いや、違う彼女じゃないよ!?」


「……彼女じゃ……ない?」


 紫乃と未海がついには声を上げ初め、僕は戸惑いながら否定した。

 けれども朱音も驚いてしまったらしく、なぜか悲し気な表情を浮かべる。


「youさん教えてください! なんですか!?」

「そうだよ、説明してよ!」

「雄二、なんでそんなこと言うの……」


 ついには僕の体を掴み、三人はゆさゆさと揺さぶる。

 そして次第にエスカレート、両手、身体を引っ張り始める。


「youさん、離れましょう、この人危ないです!」

「you様、あたしとバックヤードに逃げよう! こっち!」

「離さない。雄二は私のもの」


 当然のように周囲は何事がと騒ぎはじめるた。


「美少女3人が男を取り合ってる?」

「どういう状況だよ。浮気がバレたとか?」

「つうか、3人とも可愛すぎない? モデルみたい」


 さすがに居ても立っても居られなくなり、僕は3人に強めに声をかけて、その場を離れることにした。


 ◇


「じゃあ、ボクと雄二は友達?」


「そう、勘違いさせたのはごめん」


「……ボク、悲しい……」


 会場の外に出たベンチに座って、ひとまず朱音の誤解を解いた。

 するとシクシクと涙を流しはじめて、俯きはじめる。


 え、僕が悪いの!?


 それを見かねた紫乃と未海が、よしよしと頭を撫でたり、肩をぽんぽん。


「大丈夫? よしよし、もう大丈夫ですよ」


「弄ばれたんだね、あたし達がいるからね」


 冗談なのか本気なのか、その行動と台詞はよくわからないが、喧嘩みたいにならなかったのは幸いだった。

 それから少し時間が経つと、朱音は顔をあげた。


「ありがとう。ボク、男性に綺麗だって言われたのはじめてだし、こうやってデートしたことも初めてだから舞い上がっちゃった。雄二、紫乃、未海、迷惑かけてごめん」


「いや、僕こそごめん。気づかなくて」


「気にしないでください。私たちも驚きすぎたのが良くないです」


「you様が誤解させたのが悪いんだからね! 乙女心は複雑なんだから!」


 一致団結なのか、なぜか3vs1みたいになってしまう。


 そして朱音が先輩だと伝えたら、二人は驚いていた。とはいえ朱音が敬語は使わなくていいと返したので、すぐに友達みたいになった。


「そういえば二人のライブ良かったよ」


 しかし突然、朱音が紫乃と未海に対して笑顔で言った。

 二人は困惑したあと、僕の顔を見る。だが、もちろんAngelとMIUだとは言っていないはず。


 驚いたAngelこと紫乃が、訊ねる。


「な、何の話ですか?」


「……覚えてない? ボク、霧雨アカネ」


 その名前に心臓の鼓動が鳴り響く。僕が声を上げる前、紫乃が返事を返す前に、未海が叫んだ。


「え、ええええ!? そうなの!? あなたが!?」


「うん。本当は誘われてたんだけど、ライブとか苦手だから、断った。でも、会社で話された場にはいたから、二人のことは知ってる。多分、ボク目立たないから気づいてなかったのかも」



 霧雨アカネ。

 ファン友、雨宿り。


 登録者数はAngelとほとんど同じで100万人超え。

 FPSゲームが得意で、世界大会を優勝した経験を持つ、超有名なVTuberだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る