VTuberのイベント、前日

「え、youさんも来られるんですか? 嬉しいですね」


「あたし、頑張るから見ててね?」


 学校の帰り道、紫乃と未海にイベントに行くことを伝えた。


 大きなドームなので、人も大勢来るだろう。


 いち配信者として羨ましさもあるが、応援したい気持ちのほうが随分と勝っていた。


 もしかしたら二人は恥ずかしがるかなと思ったけれど、喜んでくれた。


「本当に凄いよね。今から楽しみだよ」


「うふふ、来年はyouさんも出てると思いますよ。登録者数もうなぎ上りじゃないですか」


「そうよね、それにあたし知ってるのよ。you様が歌が上手いってこと! 一度だけ、歌ってたことあるよね」


 未海に言われた通り、一度だけ歌ったことがある。昔、歌の先生に習っていたので歌うのは好きだ。ただ、恥ずかしがり屋なのでそんな機会があっても出ることはないだろうけど。


「せっかくなので一緒に行きたいところですが、私と未海は今日から前入りなので、このまま会場の近くのホテルに泊まるんですよ」


「ああ、心配しないで。二人とも大変だろうし、あんまり僕のことは気にしないでほしい。でも、友達がライブをするなんて初めてのことだから、自分のことのようにドキドキするよ」


「あたし、you様にしかわからない合図とかしちゃおっかな~?」


 ニヤニヤと笑う未海。どこまで本気かわからないが、さすがに冗談だよ、と言った。ファンのことが大切だから、全力のときは何も考えられないからね、と。


 話していると思うが、二人は本当にクリエーターとしてのプライドを持っている。僕はどちらかというとファン寄りで、自分が楽しむことを優先してしまう。


 その点、プロ意識が凄いなあと尊敬している。


「youさんの明日の予定はどんな感じになるんですか? イベントは夕方までありますけど」


 ええと……明日は結局、朱音と待ち合わせになったので朝からだ。おそらく最後までいるだろう。


「明日は朝から夕方までの予定だよ――」

「本当ですか!? やったあ!」


 すると手を掴んで飛び跳ねる。ど、どうしてこんなに喜んでくれてるんだ?


「実はライブの順番の入れ替えがあって、私たちは二人とも出番が早いんですよ」


「そうね、お昼過ぎには二人とも終わるから、こっそりイベントを廻ろうって話してたの」


「そうなんだ。それってでも、大丈夫なの?」


 AngelとMIUが会場を歩く……バレたらとんでもないことになりそうだが、二人は許可をちゃんともらってるという。


「さすがにわからないですよ。声もある程度変えてますしね」


「そうそう、割と他の人もそうするって聞いてるよ。私たちも他の人のVTuberのグッズとか買いたいし」


 大胆だなと思ったが、確かに普通に考えてバレるわけがないか。


 購入するときに声を出したとしても、それは会場側の人と受け答えするだけだ。


 そもそも言われないとAngelとMIUってわからなかったしな。


「それじゃあ、このあたりで私たちは駅に向かいますね。ということで、明日終わったらメッセージ入れるので、会場を一緒に回りませんか?」


「ああ、わかった。ちょっと心配だけど、楽しみにしてるよ」


「you様じゃあね、ライブ見に来てくれるの楽しみにしてるー!」


 ぶんぶんと手を振る二人を見送って振り返る。


 自宅に向かいながら本当に楽しみだと思っていたら、足が止まる。


『会場を一緒に回りませんか?』『ああ、わかった』


 そういえば、朱音と行くことを伝えていなかった。今からメッセージを送る? いや、イベント前にわざわざ言うのも変か。



 ……大丈夫かな?


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る