山城朱音――先輩。

 翌日、放課後になって図書室で山城朱音やましろあかね”さん”を待っていた。


「あ、」


 ゆっくりと歩いてきた”先輩”に、声をかける。


「すいません、昨日は……」


「いいよ。でも、今さら敬語はちょっと恥ずかしい」


「え、でも敬語使えって――」


「そんなこといいから、本読も」


「あ、は――うん」


 どうやら敬語は使わなくてもいいらしい。引き続き『一軍ギャルが1000万超えのVtuberになるまで』を一緒に読んでいると、面白いところで同時に笑う。


「ボクの真似しないで」


「真似ってわけじゃないけど……面白かったから」


 どうやら恥ずかしかっただけらしく、俯いている。とはいえ、前髪が長すぎて見えないけれど。


 気づけばまた遅くなっていた。本を片付けたあと、帰宅の準備をしていると、山城さんも靴を履き替える。


 示し合わせたわけではないが、校門、さらに道まで同じ。


 歩幅も変わらないので、並走しているみたいになる。


「雄二ってもしかしてストーカー?」


「道が同じだからで……だよ」


 慣れない敬語をは諦めて、タメ口で話す。そういえば、一つ気になったことがあった。


 どうして彼女が、Vtuberの本を読んでいるかだ。


 実は結構マイナーな本なので、被っているのはめずらしい。


 ずっと頭の中で疑問を抱いているのはつらいので、訊ねてみる。


「もしかして、Vtuberとかに興味があるの?」


「秘密」


 短文で返されてしまい、早々に会話が終わった。


 困ったな……間が持たない。


「ボクは答えたけど、雄二は?」


 答えたうちに入らないが、おそらく言っても無駄だろう。

 僕が配信しているのは誰にも言っていない。ただ、紫乃や未海みたいにバレてしまった場合は除くけど。


 なので、流石にしているとは言えなかった。


「ええと、Vtuberが好きだからかな」


 ただ、シンプルに答えた。嘘はない。だが、彼女の反応は早かった。


 いきなり距離を近づけてきたと思ったら、スマホを見せてくる。


「これ、ボクが好きなVtuber」


 そこには、Angelの動画、そして次にフリックしたらMIUの動画。


「僕も好きですよ」


「本当!? ボクも大好きなんだけど! 特にこの動画とか、すっごい笑えるし!」


「うんうん、あ僕はこれが好きですね」


「わかる……面白いし、可愛いし、本当に天使みたい」


 さっきまでの無表情さはどこえやら、山城さんは情熱的に語ってくれた。


 紫乃と未海のことを紹介したら、多分びっくりするだろう。


「でも、最近はこの人が一番好き」


 しかし最後に見せてきたのは――you、僕だった。


「この人の声、好き」


「あ、ああ……」


 何とも言えずに困ってしまう。ただ、それが逆に興味がないと思われてしまったらしく、我に返ったように山城さんは恥ずかしそうにした。多分、語り過ぎたんだと思ってしまったらしい。


「ごめん……ボク、好きなことになると熱中しちゃって周りが見えなくなるんだ。だから、友達もいなくて」


「いや、そうじゃなくて……その……」


 山城さんのことが、なぜか自分と被って見えた。友達もいなくて、という言葉が突き刺さる。

 彼女になら言ってもいいなと思った。


「その、youは……僕なんだ」


「え? youが僕……? え、ええええええええええ!? あ、え、あえ、じゃあボク、雄二が好きだって言っちゃったの!?」


 随分と時間がかかったが、どうやら理解してくれたらしい。告白のような事を言っていたことにも気づいて、慌てふためく。


 いや、僕も恥ずかしいんだけど……。


「でも、嬉しかった。最近ちょっとずつだけど、登録者も増えてるし」


「……ボクはずっと前から見てた。最初の放送から」


 驚いたことに、山城さんは古参だった。随分と前の話もしてくれて、嬉しかった。


 楽しくおしゃべりしていると、別れ道が来てしまう。


「それじゃあ、また明日」


 しかし、山城さんは僕の袖を掴む。


「もう少し、話したい。家……来ない?」


 そうして僕は、山城さんの誘いと断ることが出来ず、まさかの家にお邪魔することになった。


 



 

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