少しずつ変化していく
「高本くん、おはよう」
「ああ、おはよう」
最近、学校で挨拶されることが増えている。
今のはクラスメイトの女子だったが、前は違うクラスの同級生ということもあった。
僕自身、見た目を変えたことと、紫乃と未海と話すようになってから人の目を見てちゃんと話せるようになっている。
相変わらず友達が多いわけではないけど、オドオドすることは減っていた。。
心の中で、美容室のお姉さんに三回感謝した。
「よお高本、元気かあ?」
「それなりに元気だよ」
「ふんっ、調子に乗りやがって」
子分を従えた
なぜなら、
「おはようございます。雄二くん、いつもより早いですね」
「雄二っ! 昨日のアニメ見た?」
紫乃と未海が、僕と仲良くしてくれているからだ。
ちなみにyouだと流石に周りから変に思われるので、名前で呼んでもらうことにした。
てっきり高本のほうだと思っていたが、迷いもなく下の名前で呼ばれているのは、ちょっと恥ずかしい。
ただ、
このまま平和に……とは思えない。いつか必ず牙を向いてくるだろう。
けれども、前の僕はもういない。その時は、真正面から戦ってやるつもりだ。
◇
放課後、久しぶりに学校内の図書室へ向かう。
実はこの学校、文芸コーナーにライトノベルが置いているのだ。
数こそ少ないが、図書委員の人が好みなのか、最新刊を仕入れてくれる。
お金のない僕にはありがたくて、たまにこうやってチェックしているのだ。
扉を開けて中に入ると、インクの本の香りがした。やっぱり、落ち着くなあ……。
「ええと、あるかな」
『一軍ギャルが1000万超えのVtuberになるまで』
あった! と思い本を取り出そうとすると、白い腕が伸びてきた。
ドラマのように触れ合ってしまい、思わずびっくりする。
「「うわっ!?」」
驚いて視線を向けると、女の子だった。
「ご、ご、ご、ご、ご、ご、ご、ご、めんなさい……」
僕の何倍もてんぱっているのか、耳まで真っ赤にして俯く。
身長は未海より少し高いが、まだどこか幼さが残る顔立ちだ。
とはいえ、前髪が垂れ下がりすぎていて目がほとんど見えない。
「いや、こちらこそごめん」
声が出ないほど恥ずかしいのか、返事が返ってこない。なんだか以前の僕を見ているようだった。
しかし、その手には『一軍ギャルが1000万超えのVtuberになるまで』を離さずにもっている。
「それ、僕も見たいんだけど……」
「ボクも見たいのでダメです……」
まさかのボクっ子。半べそだが、主張は強いらしい。しかし、引き下がることはできない。
随分と前から僕も楽しみにしていたのだ。
ここは負けられない。
「ほとんど同時だったと思うんだけど」
「同時じゃなくてボクのほうが早かったから……」
「ジャンケンは?」
「負けたら取られるので嫌です……」
「じゃあ、あっち向いてほいは?」
「首が痛くなるので嫌です……」
うーん、何を言ってもダメだ。どうしよう、どうしたらいいんだろうか。
「だったらさ、ここで一緒に見るのはどう? 朗読じゃなくて、お互いが見たら1ページずつ進めるっていうのは」
最大の妥協案だった。正直、わけのわからないことを言っているのはわかっている。けれども、どうしても見たいのだ。
すると、彼女はこくんと頷いた。
「でも、ボク読むのが遅いけど……」
「それは大丈夫。俺も読むのが遅いから」
なんとか交渉は成立、僕たちは初対面同士で、本を一緒に読むことになった。
彼女がページを開いて、その横で読みはじめる。
この作者はいつも面白くて、笑える箇所が多い。
ふふふ、とつい声に出してしまう。
「あ、ごめん……」
「いい。ボクも面白いと思った……」
それから僕たちは、なんどか笑いのツボが同じだったのか、ふふふと笑いあった。
気づけば夕方で、図書室が閉まることに。
委員の人に無理をいって、取り置きと言う形で置いてもらうことになった。
帰り際、彼女が僕に振り返る。
「楽しかった」
「僕もだ。ありがとうね、無理いって」
口数は少ないが、とてもいい子だ。何処のクラスだろうか? 見たことがない。
「ボクの名前は……
「
すると、二組、と帰ってきた。おかしい、僕と同じクラスメイトだ。それなのに、どうして見たことがない?
「じゃあね、雄二。また明日」
「ああ、また。明日……?」
明日も一緒に見るのかという驚きはさておき、いきなりの呼び捨てに困った。
しかし、最後の最後に、朱音、いや朱音さんは驚いたことを言った。
「それと……先輩には敬語を使ったほうがいい。じゃあ」
「……え、ええ!?」
よく見ると、彼女のリボンはブルー。
それは二年生が付ける色だった。
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