お互いの告白
「それでは今日の配信は終わります。皆ありがとー!」
配信を停止するボタンを押す前に、コメント欄が一気に流れていく。
なんと今日は初めてスパチャをもらったのだ。
100円だったが、嬉しくて飛び跳ねてしまった。その音が配信で聞こえてしまって、地震だと思われてしまったけど。
『おつー! アーカイブ残しててほしいー』
『you様最高っ! you様最高っ!』
『またAngelとMIUとコラボおねしゃす!』
それもこれも、二人とのコラボとのおかげだ。
恩返ししたいが、僕のほうから何か声をかけるのはむしろ相手にとって迷惑だろう。
と、思っていたら、ディスコードでメッセージが飛んできた。Angelだ。
「youさん、お話いいですか?」
「お話? ってなんですか?」
「明日、放課後時間がありますか?」
放課後? というか、学校に通っていることは伝えていない。なのになぜ、放課後という単語が?
少し怖くなってしまったが、Angelは有名人だ。何かするわけでもないだろう。
それよりも、話し方が丁寧語になっている。配信の時はため口だったのに、なんでだろう。
その時、MIUからも連絡が来る。
「Angelさんから連絡が来たと思うけど、あたしも話があります!」
わけがわからなかった。もしかして二人が学校に通っててということか?
コラボのお誘いかと思ったら、なぜかカフェの場所を指定された。
半信半疑ながらも、俺はその誘いを了承することにした。
◇
喫茶店はよくあるチェーンではなく、どこか昭和感が漂う懐かしい雰囲気だ。
年配のおばあちゃんにフルーツジュースを頼んで待っていると、扉がチリンと鳴った。
もしかしてAngel? とドキドキしていたが、現れたのは何と、紫乃、そして未海だった。
「お待たせしました。すいません、突然」
「you様、お待たせー!」
わけがわからなくて頭が固まっていた。二人は学校の制服のままで、急いで来たらしく息が切れている。
同じように飲み物を頼んで、前の席に座った。
「ええと、どういうこと? なんで二人が?」
「声で……わかりませんか?」
「あたしもだにゃ」
……。
もしかして……・
「君たちが、AngelとMIU!?」
「はい、正解です」
「当たりだにゃー!」
よくよく考えれば、紫乃は敬語じゃないところ意外はそっくりだ。未海は話し言葉そのままだし、なんで気づかなかったんだろう。
っていうか、同じ高校生が100万人超えの有名人で、更に未海は勢いのある凄いVtuberだ。それも僕の友達だなんて。
「驚いた……。でも、どうしてこのタイミングで? 普通は素性を明かさないよね?」
Vtuberは身バレを嫌がる。なぜなら芸能人と同じで、ファンが大勢いるからだ。
それ自体は問題ないが、中には特定してやろうという気概のある怖いファンもいる。それもあって、できるだけ個人情報には気を遣うのが普通だ。
最近でも、飲み物を映してそれに反射した場所から家を特定された、なんて怖い話もある。
「わかっています。でも、youさんは特別だったので、嘘をつきたくなかったんです。私を助けてくれて、そして……前から配信も見ていたので、私だけ知っているのも……辛くて」
「あたしも同じ気持ちだよ。それに……コラボしようっていったのは嬉しさからだったけど、you様の登録者数を見ていると、ちょっと不安になって……望んでなかったら、悪いことしたかなって」
どうやら二人は僕を心配してくれていたらしい。それで素性を明かしてくれたのか。
「そうだったんだ……。たしかに増えすぎて怖さもあるけど、望んでいたことでもあるから気にしないでほしい」
暗かった紫乃と未海の顔が、ぱあっと明るくなる。
どうやらずっと気にかけてくれていたみたいだ。ちょうど御婆さんが飲み物を持ってきてくれて、雰囲気も少し和らいだ。
「でも、そうなると僕たちの関係は絶対バレないようにしないといけないね。特に二人とコラボしたのは周知の事実だ。三人で遊んでるとなると……何を言われるのか」
炎上の恐怖、それはネットをしている人たちならわかるだろう。どんな些細なことでも、火種が着火すれば大変なことになったりもする。
「そうですね、同じ高校生の同級生とはいえ気を付けなければなりませんね。未海も気を付けてくださいよ」
「あたしは別にバレてもいいけど、二人が心配だから気を付けるー! お互いに安心したところだし、ねえねえ、またコラボしない?」
気を引き締める紫乃だったが、すぐに表情を和らげ明るくなる未海は、配信外でも性格が変わらないみたいだ。
そういえば、紫乃だけは違う。配信では物怖じしない感じで毒舌もスパイス程度にあるが、普段聞いたことはない。
もしかして僕と同じで、配信中のほうが素を出しているのだろうか。
「そういえば、駅前のモールでVtuberのイベントをしているんですけど、見に行きませんか? 実は私と未海のグッズもあるみたいで」
「さんせー! 見たいなと思ってたけど、マネージャーさんから気を付けてくださいねって言われてたから、一人よりみんなでいったほうが安心かも」
「そ、そうかな……? 今さっき、気を付けようねって言ったところじゃない?」
「おばちゃーん! お会計お願いしまーす!」
元気よく叫ぶ未海。支払いを済ませると、紫乃が僕の腕を引っ張った。
「youさん、行きましょう?」
ほんとにわかってるのかなあ……。
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