友達が二人増えました

「美味しい……」


 未海みうさんが、桜井さんのお弁当を食べて呟いた。


 初めはVtuberのMIUだと思ってたけど、どうやら違うらしい。

 

 どうやら感動しているみたいだ。もちろん、僕も同じ気持ちだった。桜井さんは可愛くて気遣いがある上に、料理まで上手だとは……。


「本当に美味しいよ、桜井さん」


「ええ!? そう言ってもらえると嬉しいです。この前のお礼にと思っていたんですが、手料理なんてと悪いかなと思っていたので……」


 申し訳なさそうに肩を竦めるが、僕は「とんでもない、凄く嬉しい」と答えた。笑顔な桜井さんが、とても可愛らしい。


 しかし未海さんは「お礼?」と気になったらしく、桜井さんが経緯を話してくれた。


 それにいたく感激してくれたのか、未海さんは目を輝かせて僕を見る。


「さすが……さすがです!」


「いや、当然のことというか……でもすごく怖かったんだけどね……」


 そういえば未海さん僕を知っているみたいだ。ほとんど学校へ行っていなかったのに、なぜ?


「それと、未海さんもyouさんのこと知っているみたいですよ。配信を見ていたんですよね?」


「え、ええ!? そ、そうなの!?」


 まさかの答えに驚いた。未海さんは驚きつつも、コクンと首を縦に振った。どうやら恥ずかしいのか、頬を赤くさせている。

 

 いや、僕のほうが恥ずかしい……。


 というか、考えればすごいことだ。最近でこそ登録者は増えたが、今までは数十人しかいなかった。


 その少ないリスナーが、今ここに一緒に座っている。なんだったら、一緒にご飯を食べている。


 こんな幸せなことがあるんだろうか……。


「ありがとうね、二人とも配信を見てくれてて」


 僕がそう答えると、桜井さんと未海さんは笑みを浮かべて、僕の配信のなにが楽しかったかを語りはじめた。


 本当に幸せだ。


 ◇


「今日は最高の日でしたね、未海さんが来てくれてから、笑いも増えて思い出になりました」


「え、ええ!? あ、あたし何かしたかなあ!?」


 桜井さんの言う通り、未海さんは面白くていい子だった。反応も可愛くて、イルカショーのときは子供みたいにはしゃいでいた。

 

 でも、桜井さんもすごく気遣いがあって、ずっと優しかった。二人はまるで姉妹のようだ。


「それじゃあ私の電車は逆方向なので。また明日、youさん、未海さん」


「あ! 桜井さ……ん、ありがとね」


「んっ、未海さん、それじゃあね」


 二人は意味深なアイコンタクトをしていたが、一体なんだろう?


 未海さんとは同じ方向だったので、電車に乗り込んだ。


 ガタンゴトンと揺れる中、彼女を見ていると、なぜか微笑む。


 半日ほど話していたが、彼女のことを昔から知っているような気がする。


 もちろん配信を見てくれていたのだからそうなのだろうが、それにしても落ち着く。


「あ、あのyou様」


「ん? どうしたの?」


 あれ? 様?


「今日は本当にありがとう。あたし凄く楽しかった」


「……僕もだよ。でも……様はちょっと……?」


「ええ!? あ、ああ……すいません……」

 

 無言の時間が続き、どうやら未海さんの家の近く駅に到着。


「そ、それじゃあ……」


「うん、またね。今日はありがとう」


 なんだか名残惜しそうな背中だった。扉が閉まる直前、未海さんが振り返る。


「また明日、you様!」


 様はやめてって言ったのになあ……。


 でも、友達が二人もできたこと、本当に嬉しいや。



 その夜、僕の登録者数がまた著しく増えていた。


 なんか噂によれば、MIUが配信で僕のアカウントを宣伝していたとか……本当かな?



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