新鋭Vtuber『MIU』。

 あたしの名前は燐火未海りんかみう

 高校一年生だけど、身長が低いので中学生に間違えられることが多い。


 幼いころはチビだとか、ツインテールが似合わないだとかで虐められて、不登校になったりもした。


 そんなあたしのコンプレックスを取り払ってくれたのが『you』様だった。


 you様は、優しい声と気遣いで溢れている。

 

 一度あたしの身の上相談話を、一晩中チャットで聞いてくれた。その時、『Vtuber楽しいから、是非やってみたら?』とお誘いを受けた。


 その翌日、あたしはVtuberをはじめた。名前はそのままだけど『MIU』。


 憧れのyou様のようになりたくてと思ったけど、思っていたよりもVtuberに向いていたらしい。


 段々と登録者数が増えて、数ヵ月で登録者数は30万人を突破した。


 それから事務所のお誘いが来た。


 よくわからなかったけど、お金のこととか不安だし、大手だったからなんとなく入った。


 親睦会に現れたのは、転校生で可愛くで有名な、桜井紫乃さくらいしのだった。


 彼女は驚いたことに、あの『Angel』だった。登録者数は100万人を超えている。


 それ以降、あたしは彼女をライバル視していた。


 それとは別に、you様がまさかの実写配信をした。恰好良かったが、それよりも可愛くてびっくりした。


 さらに驚いたのは、同級生だったこと。


 しかしなぜか、Angelと仲が良い。悔しい、悔しい。


 あたしのほうがもっと、you様のことを知っているのに!


 ◇◆◇◆


「MIUどうしてここにいるの!?」

「えへ……えーと」

 

 Angelの動向を見守りながらバナナを食べていたら、まさかのyou様に声を掛けられてしまった。

 さらには彼女にも見つかってしまう。


 絶体絶命のピンチ、バナナだってまだ食べ終わってないのに。


「彼女は桜井さんの知り合い?」


 どうやらyou様は燐火未海あたしのことを知らないらしい。同級生とはいえ、you様が学校へ来たのは随分と久しぶりだったからかも。


 どうしよう、どうやって言い訳しよう。you様をつけていました、なんて流石に言えない。


 あ、そういえば、Angelってもしかして……。


「MIUって……もしかしてだけど……Vtuberの?」


 you様の一言で、心臓が、ドクンと跳ねる。

 

 you様が、あたしのことを知っていた。嬉しい、嬉しい、嬉しい。

 

 どうして、なんで? 見ていてくれたの? ああ、嬉しい!


 でもダメだ。バラしてはいけない。


 だって、あたしはまだAngelに勝っていない。


 胸を張って、MIUだとは言えない。


 でも、もしかして……。


 あたしはAngelに近寄って、you様にバレないように、小声で話しかける。


「あ、あなたがMIUって呼ぶから疑われちゃったじゃないの! Vtuberはリアル教えたらだめでしょ!?」


「ご、ごめん。でも、なんでここにいるの!? 何してるの?」


「と、友達にドタキャンされたのよ! それで、その……you様とあなたを見つけてしまって……」


「え、ええ……もしかしてMIUあなたも……youさんのことを知っているの? もしかして……MIU……」


 まずい。ついポロっと言ってしまった。どうやらあたしの表情で気付いてしまったらしい。

 女性は、そういうのに鋭い。


「どうしたの? 桜井さん? それに、MIU……さん?」


 あたしたちのやり取りを、不思議そうに見ているyou様が、首を傾げている。


 かわいいいいいいいいいいいいいいい♡  でも、今はまだダメ。心は隠さないと……。


「ちょっとだけ待ってくださいね。youさん」


「え? あ、はい」


 Angelが、少し離れた場所にあたしを連れて行く。


「私がMIUだと言ったことは謝る。もう言わないわ。その代わり、私がAngelだってことも内緒よ」


「わかった……でも、一つだけ聞かせて、あなたもyou様のことが好きなんでしょ?」


 俯いて頬を真っ赤にさせるAngel。やっぱりそうだ、でも、最大のライバルでもある彼女が、まさか恋敵でもあっただなんて……。


 とはいえ、こんなことをしてはいけなかった。二人の楽しいデートを邪魔してしまい、流石に申し訳なくなる。


「……それはまだ答えられない。MIU、友達とドタキャンなんて嘘でしょ?」


「え、ど、どうして!?」


「目を見ればわかるよ。youさんを取られるかって不安だったの?」


「そ、それは……」


 何もかもバレてしまっている。もう、謝って素直に帰ろう……。


 しかしAngelは、あたしをなぜかyou様のもとへ再び連れて行く。


 もしかして、ばらすの!?



「え、ええーと……youさん、この人は未海さん。私たちの同級生で、その……私の親友なの」


 親友? どうして? あたしたちは知り合いだけど、仲良いわけじゃない。


「あ、そうなんだ!? ごめん、僕全然わからなくて……気を悪くさせたよね」


 you様が謝ってしまう。ごめんなさい、悪くないのに。


「え、い、いや!? あたしは影が薄いから……」


 すると、Angelが満面の笑みを浮かべた。


「え、ええーとね……良かったらその、三人で遊ばない? 未海さん、友達にドタキャンされちゃったんだって」


「そうなんだ……それは辛いね。じゃあ、三人で回ろうか? まだ見てないところ沢山あるし」


「うん、そうしよう! あ、未海さん、その前にお弁当作ったから一緒に食べよっか?」


「え? いいの? う、うん……」


 どういうことだろう。どうしてAngelは、邪魔者のあたしを仲間に……。


 すると、耳元で囁かれる。


「youさんが好きだったら、私の友達だよ」


 流石Angel、あたしはまだこの子に勝てそうにない。


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