水族館デート

 水族館に到着。割と新しく出来たところで、家族連れやカップルなど、人が大勢いる。


 チケットを購入しようとしたら、既に桜井さんがネット購入していた。


 申し訳ないので金額を訊ねてみたが、今日はお礼だからと言われてしまう。


「気にしないでください。今日はいっぱい楽しみませんか?」


「そうだね……わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 でも、お礼が水族館だなんて……ちょっと変だよな?


 そんなことを考えていたが、入口に足を踏み入れた瞬間、頭からすべて消え去ってしまう。


 大きな水槽と、数え切れないほどの魚が目に飛び込んでくる。


 そこは幻想的な世界が広がっていた。


「凄いですね……言葉を失いそうになりました」


 桜井さんと同じ気持ちだった。思わず童心が蘇って、ワクワクする。


 しかし中は水槽を目立たせるために暗かった。人も多くて、一歩踏み出そうとした瞬間、桜井さんが子供にぶつかられて倒れそうになる。


「きゃああ」


「大丈夫!?」


 すぐに手を差し伸べると、桜井さんが掴む。もう少しで階段から落ちるところだった。


 ホッと胸を撫で下ろしてると、桜井さんが言う。


「すいません……。あの、その、服の袖を掴んでても良いですか? 思い切り引っ張ったりはしないので!?」


「もちろんだよ。気を付けてね」


 不思議と心が落ち着いていた。桜井さんの声が、なんだかよく聞いたことがあるような気がするからだ。


 安心して、心地が良い。


 一体どこで聞いたんだろうか?


 ◇


 お魚を沢山さん見たあと、お腹が空いたので食事にしようとなった。

 

 フードコートが隣接しているので、何を食べようかなと思っていたら、桜井さんが服の袖を掴みながら僕の名前を呼んだ。


「あ、あの、お外で椅子があるらしいので、行きませんか? 天気も良いですし」


「ああ、確かにそうかもね。行こうか?」


 ぽかぽか陽気だったので、外は確かに気持ちがいいのかもしれない。


 しかし、席を確保してから移動するんだと思っていたら、桜井さんが恥ずかしそうに鞄を机の真ん中に置く。


「……ガッカリしないでくださいね?」


 何が? と返事を返そうとしたら、お弁当箱が、二つ出てきた。


 それも可愛らしいピンク色で、蓋が開かないようにキャラクターもののバンドで括りつけている。


「あ、すいません……子供っぽすぎますよね」


「あ、いや! それよりこれって……?」


「ええと、あの……早起きして作ってきました! 良かったら一緒に食べませんか?」

 

 ぱかっと開いたお弁当箱には、宝石箱のような色とりどりのオカズが並んでいた。


 えへへ、と首を傾げながら頬を赤らめる桜井さんが、凄く可愛い。


「美味しそう……本当にいいの!?」


「はい! 味は保証しませんが……」


「いや、絶対美味しいよ。ありがとうね」


「いえいえ!」


 早速食べようとしたが、飲み物を忘れてきてしまったという。


 近くの自動販売機があったので、先に僕がお茶を買ってくると伝える。


 これぐらい、流石にさせてほしいと。


 その自販機に向かっている途中で、小さな女の子が、物陰で隠れていた。

 髪型はツインテール、その後ろには自動販売機があるので、声をかけないと購入できない。


 しかし女の子の目線は、桜井さんを見ている。ちなみになぜか、バナナをもぐもぐと食べている。


「……あ、あの」


 声を掛けたが、返事がない。


「あのー」


「もぐもぐ、もぐもぐ、今忙しいので……!?」


 すると僕の顔を見るなり、驚いて声をあげた。きゃああと、バナナを落としそうになる。

 そんな怖がることか……?


 けれども、その子は凄く可愛かった。年齢は思っていたよりも上、というか同じくらいだろうか?

 桜井さんもかなりだが、この子も相当美人だ。


 アイドルみたいな、小動物みたいな可愛さがある。


「え、えあ、あ、えあ、えああ、えあああああああ、えええええと!?」


 でも、なぜかテンパっている。な、なにがあったんだ?


「ど、どうしたの?」


 その女の子の悲鳴と、僕が帰ってこないとに不思議だったのか、桜井さんが小走りで駆け寄って来る。

 しかしその女の子を見た瞬間、声をあげた。


「youさん、どうした……って、MIU!? なんでここにいるの!?」


「えへ……えへへ」


 その反応から二人は、知り合いだったらしい。


 ……それよりも、MIUって……え? 違うよね?

 

 

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