夏の日の同級生
ある夏の日。
俺はファミレスで、普段は滅多に食べないかき氷を食べていた。一人で食べるのは罪悪感があるからという謎の理由で夏凪に付き合わされているのである。
「んー、夏って感じ!」
向かいの席。ブルーハワイを食べ終わった夏凪はぐっと伸びをする。さらにミュールを脱ぎバタつかせた素足が俺の足に当たった。
「行儀悪いぞ」
「誰も見てないからいいの」
「俺が見てるだろ」
半眼を向けるも、なぜかニッと微笑む夏凪。
次いで足の親指が、俺の膝頭をぐりぐりと撫でてくる。
「君塚、くすぐり弱い?」
「正直に答えたら今後不利になることが予想されるため答えられない」
「語るに落ちすぎでしょ」
今後の武器に取っとこ、となにやら物騒な呟きが聞こえてきたため急ぎ話題を変える。
「夏凪はこの夏なにか予定あるのか?」
「いやー、探偵としての仕事もあるからさ。あんまり予定立てられないんだよね」
それは確かに。学生の傍ら、俺たちは世界の危機と常に隣り合わせで生きている。
とはいえ、たまには息抜きも必要なはずで。
「じゃあ、夏祭りでも行くか?」
俺は気まぐれにそんな提案をしてみる。
確か明日、ちょうどこの辺りで有名な祭りがあったはずだ。
「夜店も出るし、たまにはそういう息抜きも……」
「あー、ごめん! そのお祭り、友達と行く約束してるんだよね」
手を合わせ、すまなそうに謝る夏凪。
「……そうか。いや、別に構わない」
構わないというか、よく考えたら夏祭りとかそんなに興味もない。
どうせ混んでるしな。焼きそば高いしな。カツアゲされるしな。それは俺だけか。
「あれ、ひょっとしてあたしと夏祭り行きたかった?」
珍しいパターンだ、と夏凪が笑う。
「理不尽だ。が、気にするな。友達と楽しんできてくれ」
言うまでもなく夏凪には夏凪の人間関係がある。俺の知らない物語がある。
あるいは斎川には斎川の、シャーロットにはシャーロットの物語が。
それはスピンオフやサイドストーリーなんかじゃない。
つまりは、そう。誰もが皆、人生の主人公というやつである。
「まあ夏祭りはごめんだけどさ。他にも一緒に行けるイベント、色々あると思わない?」
すると夏凪は埋め合わせのイベント候補を指折り数える。
「プールに海に花火大会、キャンプにバーベキューに天体観測!」
「そりゃ楽しそうだが、今年だけでそれ全部はさすがに無理だろ」
「別に夏は一度きりじゃないでしょ?」
きょとんと首をかしげ俺を見つめる夏凪。
「あたしと君塚が一緒に過ごす夏って今年だけ?」
「……違う、かもな」
夏凪が満足したように口角を上げる。
きっと夏の暑さのせいだろう。
今日のところは全面的に俺の完敗だった。
とある探偵助手と少女たちの余談@探偵はもう、死んでいる。 二語十 @nigozyu
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