もしも名探偵と異世界転移したら

「まさか私たちが異世界に転移してしまうとはね……」

 さすがの華麗なる名探偵も生まれて初めての経験に、難しい顔をして腕を組む。

「とりあえず魔王を倒して、早く元の世界へ帰らないとな」

 さっきこの国の王様とやらに頼まれた依頼を思い出しながら、俺はぐっと伸びをする。

「だね。でもこのパラメータなら、案外早く片付くかも」

 武装したシエスタが「ステータス」と唱えると、HPや攻撃力が既にMAXの表示になっていることが分かる。さすがは職業、伝説の勇者である。……なんでもう伝説なんだ?

「やれ、それに引き換え俺は……」

 俺の職業はなぜか農夫。ステータスはすべての項目が最低レベルだった。

「君らしくていいんじゃない? しかも魔物とのエンカウント率は最高値だってよ?」

「まさか異世界に来てまで《巻き込まれ体質》を引き継ぐとはな。魔王城に辿り着く前に、草原のモンスターに負けそうだ」

「ふふ、そのために私がいるんだよ」

 するとシエスタが、伝説の勇者にしか扱えないという大剣を鞘から抜いて言う。

「君は魔物を引き寄せて、私がそれを一瞬で殲滅する。そうすればあっという間に魔王のもとに辿り着ける」

「結局、元の世界と同じ構図だな」

 俺が苦笑するとシエスタは「あ、でも」と、顎に指を添える。

「魔王を倒したら、私は結婚イベントに巻き込まれるのかな?」

 なるほど、それは定番の流れである。

 魔王を倒した伝説の勇者は、国王の娘であるお姫様と結婚するのだ。今回のケースで言えば、女勇者であるシエスタはこの国の王子様とでも結婚するのだろう。

 であれば、これから俺が取るべき行動はただ一つだ。

「さ、王子様を倒しに城に戻るか」

「そんな本気の顔で斧を肩に担がないで? 本来の目的を思い出して?」

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