第13話

 教室に着いて一休みしているうちに授業が始まった。

「今日で私の授業も最終回。お疲れさまでした。今までありがとう。来年はいよいよ3年生! 勉強も難しくなるし、高校受験もあるけれど、あなた達なら大丈夫だから! うふふ。最後の小テストを返却したら、国語辞典で楽しいゲームをしましょうね。」

 最後の小テスト。「最後のテストだから満点を取りたいです」と落書きしたけれど果たしてどうなったかな。

 結果は……1問ミス! ああああああ悔しいいいいいい!

 ん? 私の落書きの横に雨宮先生の文字がある。

『惜しかったネ!』

 ほんとです! でも先生から可愛いお返事がもらえたからこれでいいですう!

「さて。最後の授業は『たほいや』を遊びましょう。何それ、って思ってる人がほとんどだと思うけれど、辞典で遊べる楽しいゲームです!」

 タホイヤ、初耳です。

 前回と同じように概ね5人一組8グループに分かれる。1グループに1冊の国語辞典と、人数分のプリント、多数の回答用紙と投票用紙、そして横5分割×縦10分割の点線が印刷された紙1枚が配られる。

 プリントはインターネットのホームページを印刷したのをさらに白黒コピーしたようで、ところどころ印刷が潰れてたけど文字は読めた。

『たほいやの遊び方』

 これにルールが書いてあるのね。

「まず切り取り線が書いてある紙はその通りに切り離して。それは点棒とかチップの代わりね。1枚が1点。一人10点を最初に持つから、一人10枚持って。」

 率先してまず紙の5分割の線で切り取り、5分割された紙を各々に渡す。これなら早いはず!

「準備できたかな。まず親を一人決めて。決まったら親が国語辞典を持って。……みんな決まったかな。親は辞書を見て、誰も知らないような単語を一つ選んで。ただし、同音異義語がある単語は選ばないでね。“はし”とか“はな”とか。」

 親になった子が探してる探してる。

「出来たかな。親は選んだ単語を用紙にひらがなで書いて。書くだけで読み上げないでね。」

 メモが出てきた。

『ぞっきぼん』

 うん、なんだこれは。

「出来たみたいね。親以外の人は、出された言葉の意味の説明文を“でっち上げて”メモ用紙に書いて。正しい意味じゃなくて、“あたかもそれっぽい”文章を書いてだますの。」

 え、騙し合いなの? 教室がざわざわする。

「いかにそれっぽい説明を作れるか、騙せるかがポイントね! 嘘の説明文が書けたら自分の名前も一緒に書いておいて。親は国語辞典に載っている正しい意味を最初の文だけでいいから回答用紙に書いておいて。全員書けたら親は回答用紙を集めて。」

 回答用紙が集められる。

「集まったかしら? 親は集めた回答用紙を好きな順番で読み上げて。親以外の人はメモを取ってもいいし、全部読み終わった後に、親にもう一度回答を読み上げてもらうこともできるわ。ただし、漢字や言葉の意味を訪ねることはできないわ。」

 親によって回答が読み上げられる。

①物を投げ捨てるようにぞんざいに置くこと。

②主にフィンランドで生産される、オークの樹液を原料にした飴。

③定価を度外視した安値で投げ売りにされる出版物。

④オーストリア北部、ドイツとの国境付近にある都市。

⑤クトゥルフ神話に登場する、悪夢を司る魔神。

 正解は一つだけであとは全部ニセモノなのか。⑤は私の書いたニセモノだけど。

「全部読み上げが出来たら、正しい文章と思うものの番号と名前を投票用紙に書いて裏を向けて、賭けるチップを1から3枚と一緒に親に出して。」

 ⑤は私の出したニセモノだから除外。えー、なんだろ。どれもそれっぽい。確かサルミアッキってマズい飴があったはずだからアレの親戚なのかな。よし、②!

「投票されたら、親は正解を発表して。」

 正解は……③! えー!そうなんだ!

「親は正解した人にチップを戻して、さらに賭けていた数のチップを渡して。外した人は騙した人に賭けたチップを渡して、さらに親に1枚、正解者がいなかったら2枚渡して。」

 外れたー! でも面白いなこのゲーム!

「親が一周したらゲーム終了。時間的に全員回らないかもしれないけれど。チップの多い人が勝ちね。今日は普通の国語辞典でやったけれど、英語の辞典でもたぶん出来るし図書館に行けばいろいろな辞典があるから、興味のあるジャンルの辞典でやってみても楽しいと思う! 音楽用語とかね。後は皆さんでやってみて!」

 雨宮先生の最後の授業は賑やかなゲームで締めくくられた。

 盛り上がっているうちにチャイムが鳴り、最後の授業は締めくくられた。

「お疲れさまでした。辞典は教卓の上に戻して。茶山さん、またお願いするわね。」

「はい!」

 辞典5冊が詰まったカゴを持ち、雨宮先生と並んで教材室へ再度向かう。

 道中は辞典が重たすぎて私も雨宮先生もだんまりだったけれど、教材室に着いて辞典を本棚に収めると、お話しする余裕が出てきた。

「先生はどこでたほいやを知ったんですか?」

「SNSで紹介してる人がいて、いつか授業でやってみたいと思ってたの。最後の最後に時間が出来たからやってみたわけ。面白かった?」

「もちろんです!」

 今この間だけは、雨宮先生を独り占め。嬉しいな。雨宮先生がお手伝いに私を誘ってくれたのは、私の行いが良かったからかな?

 あまり時間が無いのはわかってるけど、もっと雨宮先生と一緒にいたいな。

「もう休み時間そんなにないわよ? そろそろ戻らないと遅刻よ?」

「はあい。」

 この時間が名残惜しいけれど仕方ないよね。

 雨宮先生は職員室へ、私は教室へ、途中までは一緒に歩いた。雨宮先生と別れるまではゆっくり、ゆーっくり。雨宮先生と別れてからは早足で教室へ向かった。

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