指ペロテロ被害報告

桐山じゃろ

指ペロテロ被害報告

 私情で申し訳ないが、とある光景を見てから、本屋で本、特にシュリンクや紐などの掛かっていない本を買えなくなった。


 光景とは、立ち読み中にページをめくる際、指をぺろりと舐めた、お年を召したじいさんの姿だ。


 これは本当の話である。

 ノンフィクション。

 実話。

 実際に見たこと。


 本屋さんには何の非もない。

 昨今の、他人の吐く息にまで気を遣う情勢を鑑みなくても、じいさんの行動は非常識だ。


 あまりじっくりと眺めていたくない光景であったので、私は足早にその場を後にした。

 だから、おじいさんがその本を買ったかどうか、その本が何というタイトルだったのか、その本をどうしたのか等、細かいことは不明だ。

 知ったところで、じいさんが他の本に指ペロテロをしていれば、何の意味もない。


 人間、歳を取ると皮膚が乾燥しやすくなる。

 私自身も身に覚えがある。

 特に、薄いビニール袋などを広げたい時には、親の仇かと思うほどくっしゃくしゃにしてしまう。

 だからといって、指ペロテロなど絶対にしない。


 そもそも電子書籍の手軽さを手に入れてから、本屋に立ち寄ることも少なくなった。

 雑誌に興味のある付録でも付いていれば書籍で手に入れるが、それすらもネット通販(所謂『密林』)に頼っている。


 私は別に潔癖症というわけではない。

 欲しい本に電子版がなく、新品がどうしても見つからない場合は古本を入手することだってある。

 図書館にも行く。最近あまり行けていないが。


 ただ、本屋だけは、あの光景を見てからというもの、特にじいさんが居たあたりのコーナーの本には、なるべく近づかないようにしている。


 本は買わないが、文具はよく買う。本屋の文具といえはほぼ定価が常だが、私の家の近所にある書店は時折「設定、バグってませんか?」と疑いたくなるレベルで、在庫を大幅値引きしている。



 あの時のじいさん。

 せめて、その本を自分で購入していてくれ、と切に願う。

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指ペロテロ被害報告 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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